沖縄北部に「+1泊」で生み出される経済効果
USJにおける沖縄プランが頓挫した後、森岡毅はお詫び行脚で沖縄を訪れた。すでに多くの地元の関係者に話を通してあったからだ。
「罵ってもらえたら、どんなに気が楽だったか。しかし予想外に温かい言葉をかけられました。沖縄のために頑張ってくださってありがとう、沖縄に投資の可能性があることを知ってもらえただけでもよかったと。その果たせなかった約束を果たしたいという使命感、そして沖縄に感じた未来への可能性が、我々の原動力になったんです」(森岡氏)
沖縄と一言にいっても、中心は南部にある。多くの観光客は沖縄を旅行しても多くの時間を南部で過ごす。美ら海水族館という立派な施設が北部にはあるが、多くの観光客はそこに数時間滞在するだけで日帰りしてしまう。北部には大自然は多く残っているが、産業と言えるものは少ない。沖縄県の平均所得は日本で一番低いと言われるが、さらに北部の平均所得は厳しい。そこに「+1泊」させる魅力のある施設をつくれば、北部の経済を活性化できるだろう。そんな狙いが森岡氏にはある。
「沖縄のブランド価値向上の戦略も沖縄の人々と組んで考えています。高度観光人材の育成コースとして、学生向けのインターンシッププログラムも予定しています。沖縄のブランド価値の向上と高度観光人材の育成で沖縄の経済に貢献したい」(森岡氏)
沖縄モデルを世界に輸出することで広がる未来
それだけではない。ジャングリア沖縄が成功すれば、そのモデルを海外に展開できる。成長するアジアの波に乗って水平展開できる。その収益を日本に還流させたい。世界中で稼いで、その売上を将来の日本の子どもたちの食い扶持にしたい。ジャングリア沖縄は、日本の観光産業の変化の起点になると森岡氏は考えている。
「お金儲けだけが目的ではありません。しかしお金は重要です。お金というのは、やりたいことを叶える力なんです。刀の次のフェーズは海外展開です。そのためにはお金が必要です。だから将来的に刀は上場したい。それは我々がリッチになるためじゃなくて、海外に打って出るための資金調達をしておく必要があるからです。ハリー・ポッターの城を建てると言ったとき、誰も賛成してくれなかった。任天堂のエリアをUSJに建てると言ったときも、誰も信じてくれなかった。でも建ったじゃないですか。誰かがやらなくちゃいけないんです。沖縄のパークだって、生まれたばかりのベンチャーにできるわけがないと言われ続けました。誰かが未来を描かないと始まらないんです」(森岡氏)
起業して数年のベンチャー企業が700億円もの資金を集めるのは容易ではなかった。コロナ危機の時期には破綻する恐れすらあった。しかし、海外資本からの申し出だけは丁寧に断り続けた。
「外国の資本に過半数を握られてしまうと、外国の経営方針に沿った運営を余儀なくされてしまう。それでは違うものになってしまう気がしたのです」(森岡氏)
海外で事業を展開するとなれば、刀としては初めての挑戦となる。しかし心配はしていない。森岡氏自身、P&G時代に海外赴任を経験しており、海外のビジネスがどういうものかはよくわかっている。
「海外と日本では文化が違います。しかし本能の構造はそれほど変わらない。特に南国リゾートに求める消費者の本能は似通っている。消費者の本能に刺すにはどうしたらいいかということを、ちゃんと理解していれば問題はありません」(森岡氏)
ジャングリア沖縄のオープンはゴールではなく、スタートである。
森岡氏の最新刊『確率思考の戦略論 どうすれば売上は増えるのか』(森岡毅 今西聖貴/ダイヤモンド社)の最後には、こう書かれている。
マーケティングで日本を元気に!
これは株式会社 刀の社是でもある。この言葉に嘘はない。自分の得意なマーケティングという武器を使って、30年以上低迷している日本の経済を救いたい。森岡氏は本気でそう考えている。