「素材」「プロダクト」→「仕組みづくり」ではなく
「仕組みづくり」→「素材」「プロダクト」の順に考える

「3つのP」のバランス構築には、前述のような工夫を考える前に、そもそもサーキュラーエコノミーの導入に向けた段取りを踏まえておく必要があるだろう。サーキュラーエコノミーの第一原則は、廃棄を出さないための「仕組みづくり」にある。
日本の組織がサーキュラーエコノミーを考える際、廃棄を出さない「仕組みづくり」よりも先に、「素材」や「プロダクト」の話が進められる傾向がある。しかし、先に「素材」や「プロダクト」の議論が深められ、リサイクル素材やアップサイクル商品が開発されたとしても、結局、仕組み自体はリニアエコノミーから抜け出せていない事例を数多く見てきた。
サーキュラーエコノミーを実践した際の効果を、「3つのP」全てにおいて最大限得るには、まず廃棄を出さずに資源として活用し続ける「仕組みづくり」の上で、それに最適な「素材」選びや「プロダクト」開発を行う段取りが有効である。
例えば、マッド・ジーンズは、一度顧客に渡った製品を自社に戻してもらう「仕組みづくり」をまず検討し、その結果として月額制のリースモデルを採用した。次に自社に返却された製品がどのような「素材」「プロダクト」であれば、繊維化し再び製造しやすいか検証し、背面の革ラベルの不採用を決めた。また、長期間の使用を考え、ファスナーからボタンへシフトしている。
製品を返却してもらう手段には、リース式以外にもフェアフォンのようなキャッシュバックや、デポジットの仕組みもある。また、返却品は修理・分解が容易で可能な限り単一素材で構成され、それぞれの素材情報が正確に記録・伝達でき、有害物質が使用されていない、フェアな労働条件や持続的な素材調達等の観点が、資源の価値を落とさずに繰り返し使用するための要点になる。
仕組みのデザインの中では、生産・流通のためのネットワークを再構築する視点も重要である。企業への製品返却により修理・メンテナンスや再資源化を重視した仕組みづくりが進められる中、市場であるEUとその周辺国では、新しい経済圏が形成されつつある。
例えば、マッド・ジーンズは、生産・修理・再流通を担う拠点施設を近隣国であるスペインとチュニジアに構え、サークルは建材を欧州の森林から調達し、フェアフォンやマッド・ジーンズのような返却時の送料無料サービスはEU圏内でのみ適用されることが多い。
従来のリニアエコノミーでは、中国やインド等にあった「生産」施設が、サーキュラーエコノミーでは、「生産」に加え返却後の「修理」や「メンテナンス」、そして市場への「再出荷」の役割も新たに担うため、生産・修理の拠点を市場と近い地域に設けることに利点が見出されているのだ。
このような生産・物流拠点の変化には、日本のビジネスにもヒントがある。現状、日本のビジネスはまだまだ日本語のみでの展開が多く、その場合、市場が国内に限定されてしまう。しかし、例えば韓国、台湾、中国等の周辺国を市場として捉えることで、ビジネスの新たな広がりが考えられる。さらに英語での発信強化は、世界中の企業から問い合わせを受け、知的財産型ビジネスへ発展させる可能性を持つ。
また、欧州で生産・修理の拠点がEU市場に近い地域に構えられているように、日本でもこれまで諸外国に頼ってきた生産の現場を、国内の町工場へ取り戻し、修理拠点の役割も担ってもらう道筋が見えてくる。
裏を返せば、今後、修理やメンテナンスの新しい技術が求められる中、日本の町工場は下請けとして特定企業からのみ仕事を受け続けるのではなく、受注可能な工法や技術を、積極的に発信し、新しい共創企業を見つけることが生き残りの鍵になり、これは今後、日本社会全体でサーキュラーエコノミーを促進するためにも重要だ。