アディダス、フライターグ、パタゴニア、フィリップス……サーキュラーエコノミーにおける5つのビジネスモデル

2015年12月に欧州委員会は「循環経済行動計画（Circular Economy Action Plan）」を発表。「サーキュラーエコノミー（循環経済）」を新しい経済成長戦略として位置づけた。

循環経済とは、「生産段階から再利用などを視野に入れて設計し、新しい資源の使用や消費をできるだけ抑えるなど、あらゆる段階で資源の効率的・循環的な利用を図りつつ、サービスや製品に最大限の付加価値をつけていくシステム」（経済産業省資源エネルギー庁）をいう。こうした欧州の動きを踏まえて日本でも2020年5月に「循環経済ビジョン2020」を発表。「環境活動としての3R（リデュース、リユース、リサイクル）」から、「経済活動としての循環経済」への転換をはかるのが大きな特徴であり、これによって持続可能な社会をつくるとともに、経済的にも成長していくことをめざしていく。

国内外の循環経済の事例と実践の調査を続けるCircular Initiatives&Partners（株）代表の安居昭博氏は、循環経済のカギは「仕組みづくり」にあると断言する。また「自然界の循環が生命の多様性をもとに成り立っていることを鑑みると、人間社会における新しい仕組みづくりでも重要になるのは、ビジネスモデルや個人の生き方の多様性、そして社会全体の『共創』関係である言える」とも述べている。

これらを詳しく解説する安居氏の著書『サーキュラーエコノミー実践』から、循環経済の基礎を5回に分けて紹介する。第2回は、アディダス、フライターグ、パタゴニア、フィリップスなどを例に、アクセンチュアが提唱したサーキュラーエコノミーにおける5つのビジネスモデルを解説する。

サーキュラーエコノミーにおける
5つのビジネスモデル

　2015年、アクセンチュアはサーキュラーエコノミー型ビジネスモデルにおける特徴的な側面を抽出し、次の5分類を提唱した（※）。
※accenture「無駄を富に変える：サーキュラー・エコノミーで競争優位性を確立する」（最終閲覧2021/5/28）

1　サーキュラー型のサプライチェーン（再生可能な原料を使用）
2　回収とリサイクル（廃棄前提だったものを再利用）
3　製品寿命の延長（修理、アップグレード、再販売）
4　シェアリングプラットフォーム（保有しているものを貸して収入を得る）
5　サービスとしての製品（顧客は所有せずに、利用に応じて支払う）

　以下それぞれの事例とともに見ていきたい。

1　サーキュラー型のサプライチェーン（再生可能な原料を使用）

「アディダス（adidas）」が2019年に発表した「FUTURECRAFT.LOOP」というシューズは、接着剤が全く使用されず、ソールや靴ひもの部分も含めて全てが熱可塑性ポリウレタンの単一素材でつくられている。

　またマッド・ジーンズ同様、販売ではなくリース式で利用者に廃棄させず返却を促している。これによりアディダスは、使用済みシューズを回収して丸ごとリサイクルすることで廃棄を出さず、新しい資源を調達せずとも再びシューズを生産できる体制を整えつつある。

　アディダスが単一素材での製品づくりにこだわるのには理由がある。仮に別の素材や接着剤が使用されていた場合、使用後に丸ごと再資源化できず、分解・分類という新たな工程が発生してしまう。そのため、素材は可能な限り混合を避け、単一素材や純度の高い素材を使用した方が、資源循環の仕組みを整えやすいことがアディダスの研究開発によって明らかになった。

　ちなみに、現在世界的に使用規制が進むプラスチックも、素材の複雑性が一つの論点になっている。「プラスチック」という名称で様々な混合材が一括りにされてしまっていることが回収後のリユースやリサイクルを難しくしている。例えば観光地では、使用素材や表記に関するルールの違うプラスチックが様々な国から持ち込まれるため、適切な廃棄物処理政策のハードルが高い。

2　回収とリサイクル（廃棄前提だったものを再利用）

「フライターグ（Freitag）」は1993年にスイスで生まれたアパレルブランドだ。デザイン性、耐久性、使い心地に優れたかばんづくりを模索していたデザイナーのマーカス＆ダニエル・フライターグ（Markus & Daniel Freitag）兄弟は、チューリヒの幹線道路を走る色とりどりのトラックからインスピレーションを受け、使用済みのトラックの幌、廃棄された自転車のタイヤチューブ、車のシートベルトを回収してメッセンジャーバッグの製造と販売を始めた。

　世界に一つしかない一点ものの価値と、存在感のあるデザイン性、そして使えば使うほど革のように馴染んでくるトラックの幌の独特な素材感が人気を集め、現在世界各国に400店舗以上を構えている。

　また、利用者に同じものをできるだけ長く使用してもらえるよう、マニフェストに「We repair（壊れたバッグは修理する）」を掲げ、「幌バッグ専門外科医」という専門スタッフを店舗に配置することで、修理にも力を入れている。

3　製品寿命の延長（修理、アップグレード、再販売）

「パタゴニア（patagonia）」はアメリカ人ロッククライマーのイヴォン・シュイナード（Yvon Chouinard）が1973年に創業した総合アウトドアメーカーであり、日本でも人気が高い。

　利用者が愛着を持っている製品をできるだけ長く使用してもらうために製品の修理を承っており、修理サービスの質の良さは大きな評価を得ている。

　また、新しい製品の製造・販売が環境に与える負荷を考慮し、2017年からは「新品よりもずっといい」をコンセプトにパタゴニアの使用済み品の購入ができる「Worn Wear」を開始。ミシンを積んだトラックで様々な都市を訪れ、各地で訪問修理も行ってきた。

　2019年には日本でも全国11校の大学を訪問し、ウェアの修理やセルフリペアの講義を行い、計800点ほどの使用済み製品を修理した。「ReCrafted Collection」では、廃棄予定だった衣類や素材を用いたシリーズが展開されている。

4　シェアリングプラットフォーム（保有しているものを貸して収入を得る）

「ピアバイ（Peerby）」はオランダで人気を集めている一般市民間（C to C）でのシェアリングプラットフォームだ。

「滅多に使用しないのに、どうして購入・個人所有する必要があるのか?」というコンセプトのもとに、同じ地域内で貸し手と借り手を繋ぐサービスを提供している。借り手はHP上で借りたいものを提供している貸し手を探し、1日単位から借りることができる。

　2021年5月現在、自転車や工具、キャンプ用品、ボードゲーム、家具、調理器具等が提供されている。またオランダでは、企業から個人向け（B to C）のシェアリングサービスとして食洗機やコーヒーマシン等も借りることができ、個人所有から社会全体で共有する仕組みが整えられている。