
2015年12月に欧州委員会は「循環経済行動計画(Circular Economy Action Plan)」を発表。「サーキュラーエコノミー(循環経済)」を新しい経済成長戦略として位置づけた。
循環経済とは、「生産段階から再利用などを視野に入れて設計し、新しい資源の使用や消費をできるだけ抑えるなど、あらゆる段階で資源の効率的・循環的な利用を図りつつ、サービスや製品に最大限の付加価値をつけていくシステム」(経済産業省資源エネルギー庁)をいう。こうした欧州の動きを踏まえて日本でも2020年5月に「循環経済ビジョン2020」を発表。「環境活動としての3R(リデュース、リユース、リサイクル)」から、「経済活動としての循環経済」への転換をはかるのが大きな特徴であり、これによって持続可能な社会をつくるとともに、経済的にも成長していくことをめざしていく。
国内外の循環経済の事例と実践の調査を続けるCircular Initiatives&Partners(株)代表の安居昭博氏は、循環経済のカギは「仕組みづくり」にあると断言する。また「自然界の循環が生命の多様性をもとに成り立っていることを鑑みると、人間社会における新しい仕組みづくりでも重要になるのは、ビジネスモデルや個人の生き方の多様性、そして社会全体の『共創』関係である言える」とも述べている。
これらを詳しく解説する安居氏の著書『サーキュラーエコノミー実践』から、循環経済の基礎を5回に分けて紹介する。第5回は、日本企業の未来と可能性を広げるサーキュラーエコノミーの「第一原則」や、日本社会全体でサーキュラーエコノミーを促進するために重要なことを解説する。
過去、現在、そして未来に続く
日本のサーキュラーエコノミー

1988年生まれ。Circular Initiatives&Partners 株式会社代表取締役。京都市委嘱 成長戦略推進アドバイザー。ドイツ・キール大学「Sustainability, Society and the Environment」修士課程卒業。2021年、日本各地でのサーキュラーエコノミー実践と理論の普及が高く評価され、「青年版国民栄誉賞(TOYP2021)」にて「内閣総理大臣奨励賞(グランプリ)」受賞。建築・食・ファッション・テクノロジー・イベント業界等、幅広い分野の企業にアドバイザーや企画プロデューサーとして関わる。著書に「サーキュラーエコノミー実践 オランダに探るビジネスモデル(学芸出版社)」。
オランダでサーキュラーエコノミーに取り組む友人から、このような相談を受けたことがある。
「アキ、日本の喫煙者はどうして日頃から携帯灰皿を持ち歩けるんだ? オランダでも習慣にしたいけれど、どうしたら日本のようにわざわざ持ち歩いてもらえるかが分からないんだ」。
メディアで伝えられる海外の情報はポジティヴなものが多くなりがちだが、オランダも完璧な国ではない。アムステルダムでは路上ごみの中でたばこの吸殻が最も多く、たしかに視察に訪れた日本の方々も街中のごみの多さに驚かれる。オランダ人には灰皿の携帯はなじみがなく、習慣化することはとてもハードルが高いそうだ。
また、他にも、日本の飲食店等でビール瓶が返却・再利用されるリターナブルな仕組みも、欧州では注目されている。日本の大手ビールメーカー同士はビール瓶を共有し、それらは8年近くリユースされることもあるという(※)。
※細田衛士『グッズとバッズの経済学 循環型社会の基本原理 第2版』(東洋経済新報社 、2012、85頁)
これは、規格が統一された瓶やケースを本来競合関係にある企業間で共有し、また入荷と逆の返却ルートが整えられている成果である。オランダでは、空き瓶は基本的に全てリサイクルされているため、バタフライダイアグラム(※)で示された優先順位においては、日本のリターナブルな仕組みの方が優れた実践である。
※サーキュラーエコノミーへの移行を進める際、優先度の高いアプローチを決定するのに役立つ概念を図解化したもの
つまり、携帯灰皿やビール瓶のように、オランダ等の欧州諸国と日本のどちらが遅れている/ 進んでいるかは一概には言い切れない。一般的な消費者意識に関しても、日本は意識が低いと言われているが、5年間欧州にいた私の印象では、向こうでも意識の高い消費者はまだまだ少数派である。また、フライターグやパタゴニア、オニバスコーヒー等、従来の商品より高価格帯ながら日本でも人気を集めている事例はいくつもある。
すなわち国全体の優越ではなく、欧州でも日本でも「3つのP」をうまく伸ばしている組織は、「(意識の高い人々だけでなく)一般の人々に自社商品やサービスを利用してもらう」という課題にうまくアプローチできていることが分かる。
そのためには、実際に足を運んでみたくなる空間づくり、思わず手に取りたくなるパッケージデザイン、圧倒的な美味しさの追求、お得感のあるサービス開発、参加してみたくなるイベント企画等、多くの人々の感性に響く工夫こそが重要であり、そこに低価格だけを売りにした商品やサービスを乗り越えるヒントがあるのだ。