「60歳以降の仕事人生にも、ガイドが必要だ」――そう語るのは、リクルートワークス研究所の坂本貴志さん。高齢期の就労・賃金を専門とする坂本さんが、65歳以上・640万人のデータを分析し、まとめた書籍が『月10万円稼いで豊かに暮らす 定年後の仕事図鑑』です。
定年退職=引退だった時代は終わり、いまや「定年後の仕事探し」を自分自身で行う時代がやってきました。本書では、実際に働いている人のデータを参照しながら、19カテゴリ、100種類の仕事を紹介。現役時代とは全く違う仕事選びのコツについても解説しています。この連載では、本書より一部を抜粋・編集して掲載します。今回は、実際に定年後の仕事をしている方のインタビューを掲載します。

【定年後の仕事】75歳男性、会社役員から定年後に塾講師にキャリアチェンジした意外な「決め手」とは?Photo: Adobe Stock

総合商社のサラリーマンから個別指導塾の講師に。
優先したのは「家からの近さ」

タチバナ ミノルさん(仮名)
75歳男性 滋賀県
月収:年金28万円+勤労収入10万円=38万円

 総合商社で60歳まで勤続。定年後5年間はいくつかの会社で役員を務め、65歳以降はすべてアルバイトとして働いてきました。東海道ツアーのガイド、ホテルのフロント兼コンシェルジュ、塾講師。いずれも趣味と実益を兼ねたものです。

 現在は学習塾講師1本です。3年前に東京から妻の地元に転居し、選べる仕事が少ない中見つけたのが全国展開する個別指導塾の講師でした。

 決め手は自宅から10分の立地です。東京にいた頃も集団指導塾の講師をしていたことがあるのですが、「今日は横浜」「今日は小田原」などと遠い教室へ行かされるのが大変で辞めた経緯があります。なので最優先は家から近いこと。2番目が朝早い仕事でないこと。給与は3番目です。

 正直なところ今の仕事の給与は高くはありません。人に勉強を教えた経験といえば、学生時代に家庭教師のアルバイトをしていたことと、子どもの中学受験・高校受験のときに多少教えていたくらいで、サラリーマン時代は経験がありませんでした。

 繁忙期はサラリーマンの頃より疲れる担当教科は小学生の算数・国語、中学生の英語・社会・国語、高校生の国語・日本史です。どれも得意な教科ですね。日本史は歴史学者になりたいと思っていたほど好きですし、英語も商社時代の実務経験があります。逆に数学と理科はこの年になると難しい。数学は公式などがパッと出てこなくなりますし、理科は日進月歩で元素の周期表ひとつとっても自分たちの時代とまったく違い、今さら頭に入りませんから担当していません。

 シフトは月~木の個別指導を基本として、今は土曜に集団指導の入試対策講座も受け持っています。塾は受験前の12~2月が最も忙しく、人手不足になると遠方の教室にも駆り出されることが増えます。そうなると片道1時間半かかるので、帰宅は23時近く。1週間出ずっぱりになることもあって、サラリーマン時代より疲れます。

 75歳でガツガツ働く気もないのですが、趣味がないもので、結果的に仕事が生活の中心になっています。本を読んだり勉強したりする時間は昔の自分に戻るように感じます。日本史も英語も、どの教科も教える内容が変わってきているので、知識を更新する必要がありますよね。そうやって勉強することは嫌いじゃないし、多少は頭の働きが持つんじゃないかと思っています。

 生徒が「希望の高校に入れた」「英検2級を取れた」というときは、もちろん本人の努力の賜物なのですが、報告に来てくれたときは非常にうれしいものです。今後については、78歳くらいで運転免許を返納し、仕事も区切りをつけようかなと考えています。もし元気だったらまた異なる選択もあるかもしれませんが。