1920年代の文壇で活躍したオーストリアの作家シュテファン・ツヴァイクにとって、「ロマンチックで非現実的な」ザルツブルクの自宅の魅力の一つは、「車では行けない」アルプスの山麓の丘に立つことだった。自動車業界の大物、ウォルフガング・ポルシェ氏(81)は2020年、17世紀に建てられたこの邸宅を約900万ドル(現在のレートで約12億8000万円)で購入した。同氏にとってそうした不便さは、多額の資金を払えば解決できる工学的問題に過ぎない。その解決策とは、丘を貫通する全長およそ1600フィート(約488メートル)の個人用トンネルを建設し、広大な地下ガレージにつなげることだ。問題は、モーツァルトと「サウンド・オブ・ミュージック」の舞台として知られる、絵画のように美しいザルツブルク市が、現代の最も著名な住民にトンネル建設のゴーサインを出すかどうかだ。