音楽はCDではなくダウンロードで買う時代になって久しいが、米Amazonが今年1月にローンチしたAutoRipというサービスでは、同社MusicStoreから対象CDを購入すると、MP3版の楽曲ファイルも無料でついてくる。さらに4月には、対象がビニール盤レコードにも拡大された。この時代にあえてCD/レコードという「モノ」ベースのパッケージ商品に絡めたサービスとして展開する“Amazonらしさ”が奏功するか、注目が集まっている。
いっぽう対照的に、音楽コンテンツの楽しみ方が、所有から利用へと着実に変わりつつあることを示すのが、海外での月額会員制ストリーミングサービス――言うなれば、お金を払って毎月の「聴き放題枠」を買うサービス――の好調ぶりだ。スウェーデン発のSpotifyとアメリカのPandoraがその代表格。従来のインターネットラジオから大きく進歩した選曲や使い勝手のよさでユーザーの心をとらえている。
さらにこの5月には「Google Play Music All Access」のサービス開始が発表されたし、アップルもiRadioで参入すべく大手レーベルと交渉中だという。無料ネットラジオがいくらでもあるなかで、有料サービスがなぜ成立するのか。Pandoraを例にその訳を考えてみよう。
Pandoraのウリは、ユーザーが入力したキーワードを手がかりに、それとよく似た楽曲を次々に流してくれるアルゴリズムだ。これはプロのミュージシャンを雇って一曲一曲を分析することで実現したサービスで、そのムードの持続感は他の追随を許さない。
従来のネットラジオではタグ付けされたジャンル分けを頼りに局を選ぶしかなかったが、Pandoraなら、ジャンルをまたいで同じムードの曲を流してくれるので、意外な出会いがあり、飽きがこない。Googleの検索アルゴリズムやAmazonのレコメンド・システムにも通じることだが、一度使えば忘れられない「かゆいところに手の届く」感が、多くのユーザーから選ばれている理由だ。
一方で、SpotifyやGoogle All Accessには、Pandoraにはない、曲名を検索してオンデマンドで聴く機能が強みとなっている。
Pandoraには無料版と、年額36ドル(もしくは月額3.99ドル)の有料版があり、後者には外部広告の非表示、モバイルデバイスでは月40時間までという聴取制限の解除、楽曲スキップ可能回数の増加などのメリットがある。Pandoraのアクティブリスナーは7000万人近くに達し(今年3月時点)、ネットラジオではダントツの全米1位なのはもちろん、ラジオ全体の聴取シェアで8%を占めるまでになっている。
そんなPandoraも当初から順風満帆だったわけではない。売上の50%というきわめて高率な楽曲使用料の支払いが課されているため、なかなか黒字化できず、スタッフの給料を払えない時期すらあったという。ちなみにPandoraの収益の9割近くは広告によるもので、会費収入はほんの一部にすぎない。
日本でも音楽著作権処理の煩雑さから、個人運営のネットラジオ局や、そうした個人局を集めてジャンル分けした大規模サービスが発達してこなかったが、昨年くらいから潮目が変わってきている。auの「うたパス」や、ソニーの「Music Unlimited」など、定額の音楽配信サービスが次々にスタートしている。
かつて「着うた」という独自のイノベーションが、音楽配信ビジネスを大きくけん引してきた日本。ガラパゴスと言ってしまえばそれまでだが、独特の音楽文化と聴取習慣に根ざした新たなサービスの開発で、日本独自の定額配信サービスが根付くことを期待したい。
(待兼音二郎/5時から作家塾(R))