まぶしい光を放つ蛍光灯がオフィスから姿を消しつつある。新しく登場したさまざまな照明技術が、光の美しさだけでなく、はるかに多くの効果を職場にもたらすと期待されている。
改善され、健康にも良い影響を与える可能性がある照明は、リモートワークの時代を経て 従業員をオフィスに呼び戻したい 企業やビル所有者にとって優先度の高い課題となっている。そのため、自然光を模した人工天窓(バーチャルな太陽や月を備えている)や、従業員の24時間周期の生体リズムに合わせて調整可能な照明システムなど、新技術への投資が行われている。
「自然光の方が望ましく、人々の気分が良くなることは以前から知られており、全くとっぴなアイデアというわけではない」。ペンシルベニア大学ウォートンスクールのピーター・カペッリ教授(経営学)はこう話す。
心理的な利点に加え、光は認知作業を行う中で 非視覚的な脳の機能、特に持続的な注意力を要するものに影響する 場合があることを研究結果は示している。オフィスの照明は改修に費用がかかり、業界関係者によると、これらの技術をいくつか導入すれば改修費用が20~30%増える可能性もある。そのため、こうしたやり方が主流になるまでには時間を要するかもしれない。以下に、職場に近く登場する技術を紹介する。
新型コロナウイルス流行が収束した後のウェルネスブームに乗り、オフィスの設計者はいわゆる「概日リズム(睡眠と覚醒のリズムを決めている体内の生物学的時計)」に同期する照明方法を模索している。1日を通じて屋外の光に同調するように、光の強度(明るいか暗いか)や「色温度」(寒色系か暖色系か)を調整できる照明が間もなくお目見えする。
トーマス・ジェファーソン大学のジョージ・ブレイナード教授(神経学)によると、このような照明の開発は、2000年代初め、網膜にあり、一般に人間の認識レベルでは捉えられない光を検知する種類の光感受性細胞を研究者らが発見したのを機に本格化した。この光受容体は、視覚からは独立して生物学的な働きや行動に影響を与える可能性があることを研究者らは突き止めた。
シータック・ライティング・アンド・コントロールズ(本社・シアトル)の建築照明・素材専門家、ジェイク・パック氏は「当社への要望が大幅に増えている」と話す。シータックはオフィスの内装などを手がけるJPCアーキテクツと協力し、工業コンサルティング会社ハージス・エンジニアズのシアトル本社に調光可能なLED(発光ダイオード)照明を設置した。ユーザーが色の強度や温度を制御できる技術を導入した天井取り付け型シリンダーが含まれるが、同社の場合、個々の従業員が照明を調節するのではなく、会社が事前にプログラミングしている。
この照明は理論上、従業員が睡眠・覚醒などに関わる脳内物質のメラトニンとセロトニンの水準をバランスよく保つのに役立つ。それと同時に、ハージス・エンジニアズでプリンシパルを務めるブレンドン・インマン氏によると、顧客や設計スタッフにこの技術を実際に見せる狙いもあった。「エンジニア集団として、常にクールで新しい物を社内に取り入れようとしている」
人工的な照明を施した窓は、屋外に青空が見えるような錯覚を与え、1日の間に徐々に日没へと移行する。天窓には仮想の太陽が映し出され、夜には月のようなものが見える。
照明設備メーカーのインナーシーン(本社・サンフランシスコ)のジョナサン・クラーク最高経営責任者(CEO)は「私は何でもリアルに見せることに常に魅了されていた」と話す。以前、ゲーム開発会社を共同創業し、ソニーと共同でゲーム機「プレイステーション2」向けの3Dグラフィックスライブラリーを開発したクラーク氏は、このコンセプトを仮想現実(VR)の仕組みになぞらえた。
これらの窓や明るい空は、自然光がほぼ入らないオフィススペース向けだ。高層ビルの通常は天窓を設置できない階や、近くの高層ビルに光を遮られた場所などが用途として考えられる。立地や請負業者によって価格はまちまちだが、最小規模で設置する最低価格帯の商品で1000ドル(約14万5000円)前後から、最大規模の高級品で1万5000ドルまであるとクラーク氏は話す。
インナーシーンは3月、次の製品を発表した。空の色味と強度をサンプリングし、そのデータを無線で人工窓に送信して同じ景色を見せるためのセンサーだ。
この錯覚をやや奇妙だとか、あるいは不気味だと感じる従業員はいないのか。クラーク氏は「必ずと言っていいほど『すごい』という反応が返ってくる」と話す。
天井に蛍光灯がズラリと並んだ武骨で工業的なスタイルのオフィスはもう古い。企業は「家庭的な」ムードを演出する多様なスタイルに目を向け、従来と異なる職場環境を提供しようとしている。
美術大学のロードアイランド・スクール・オブ・デザインで照明を教える工業デザイナーのジョナ・タカギ氏は、デスクや防音ブース、ラウンジなどで仕事をする場合、異なる種類の照明が必要だと話す。同氏は家庭にある充電式コードレスランプをオフィスに採り入れ、従業員が日中、好みの照明をどこでも使えるようにする構想を立てている。
ビジネス交流サイトを運営する米リンクトインのカリフォルニア州サニーベールとネブラスカ州オマハのオフィスでは、従業員が個別のフォーカスルームや休憩室に入り、光の強度や色合いをリモコンで自由に調整できるようにしている。同社のオフィス設計を手がけた建築・設計・プランニング企業ゲンスラーの設計責任者、ケリー・ドゥビザー氏は「肝心なのは、従業員が空間を今まで以上に制御できることだ」と話す。同氏によると、ゲンスラーは色彩療法の側面を取り入れることを目指した。特定の色や照明を組み合わせた中に身を置くことで、気分や幸福感を高める治療法だ。
会議室でも、調節可能な照明が増える傾向にある。こう話すのは、米不動産サービス会社CBREグループ傘下のコワーキングスペース運営会社インダストリアスで設計担当シニアディレクターを務めるジーン・チャンドラー氏だ。例えばビデオ会議の場合、ボタンを押すと中央の天井照明が20%暗くなり、テーブルに座った人たちの顔に十分光は当たるが、影はできない。一方、部屋の端の照明は50%暗くなり、参加者の姿が浮かび上がるようになる。
社内のオフィスエリアからジムやゲーム室があるアメニティーエリアにつながる通路が、たくさんの照明で光り輝く様子を想像してほしい。
「その狙いは、休憩に入る時、労働環境から完全に切り離された感覚になることだ」。米携帯電話サービス大手TモバイルUSのオフィス(カリフォルニア州キングスバーグとテキサス州アービング)に、光に照らされた「進入路」を作ったJPCアーキテクツの副プリンシパル、ジェイソン・ロマイン氏はそう語る。この進入路は2021年、異なるエリアをつなぐ純粋に機能的な通路として始まったが、それ以降、木のイメージなどデザイン要素を取り入れて進化してきた。
顧客は新プロジェクトを始める際、この進入路について質問するケースが増えている、とロマイン氏は言う。「目印としても、場所や時間の区切りとしても興味を引きやすい」
太陽のまぶしさを軽減するため、自動的に薄い色を帯びる窓も登場している。
建設大手スカンスカUSA(本社・ニューヨーク)がシアトル地区で開発した新しい高層オフィスビル「ジ・エイト」の25階には、アプリで制御する大きな窓がある。人工知能(AI)を使い、屋外の状況に応じて自動的に調整されるものだ。スマートビルディング技術を手掛けるビュー(本社・カリフォルニア州サンノゼ)が開発したこの窓ガラスは、わずかな電荷に反応する専用コーティングを使用し、入ってくる光の量に応じて色合いを変化させる。
「(雨の多い)シアトルでは自然光が非常に貴重なため、入居者が常に自然光を取り込むと同時に、景色を楽しめるようにしたかった」。スカンスカUSAの商業開発部門エグゼクティブバイスプレジデント、チャーリー・フーシェ氏はこう述べた。



