学生時代は古本を読みあさっていた。
著作を通して若者を刺激したい

――著作を通して、次世代とか若者世代とかに自分の知見を伝達し、本を読まれた人にいろいろなことを考えてもらいたいといったこともあるのでしょうか。

 私は学生時代、お金がなかったので、高田馬場の古本屋街に行き、岩波文庫や岩波新書の古本を50円〜100円で買って、よく読んでいました。私にとって学びは、読書によるところが多かった。今の学生がどれくらい本を読むかはわからないですが、読書好きな若者はいると思いますので、私の著書が彼らを刺激し、社会に良いインパクトをもたらすきっかけになったら嬉しいなと思います。

――『世界の貧困に挑む』の終章では、「私たちが所有している二大リソースである、お金と時間の使い方を見直せば、社会は確実に変わっていきます」として、その方法を論じています。

 人から時々、「社会のために何をすることが一番いいと思いますか」と聞かれます。正直なところ、「こういう活動が正しい」というように断言するのは危険だと思うのです。自分は他の人よりも意味のある活動をしているかどうかを気にするのではなく、「自分はこの活動が他の活動よりも好きだから」という主観で始めるのがいい。

 もちろん、多少は客観的にこの活動が社会的に意味あるかどうかを考えたほうがいいですが、ある程度の客観性が担保されているのであれば、金融包摂の実現でも環境保全でも、自分がやっていて好きだなと思うことをするのがいいんだと思います。なので、本書の終章では、いろいろな方策を書いています。

――日本ではマイクロファイナンス事業を展開しないのですか。

 日本では今、効果的な方法が思いつかないのです。日本には金融サービスへのアクセスはあります。金融包摂に関しても、低所得層の方々向けには、無利子ローンなどを社会福祉協議会などが出しています。

 日本の貧困問題は、金融包摂で解決されるものというよりは、どちらかというと普通の人たちが普通に生活していくための仕事が見つかりにくくなっていることのほうが本質的な問題ではないでしょうか。金融で可能なことは少ないのです。

 もし何かやるとすれば、質の高い職業訓練、最近の言葉でいうリスキリングでしょうか。ただし、成功確率が高い職業訓練の提供であるべきです。たとえば100万円かけて受講したら、98%の人が100万円よりも多く稼げるようになるプログラムが実現すれば、その受講料を工面できない人向けの金融サービスを提供するということは考えられます。

 重要なのは、そこで使われるプログラムであり、コンテンツです。それと金融サービスを組み合わせる可能性はあると思いますが、あくまで主は教育訓練で金融は従になります。

――それぞれの社会に応じた正のインパクトの大きさが大事であるのですね。

 金融にこだわっているわけではなく、社会や人の課題を効果的に解決できるのであれば、実行したいという気持ちでいます。(了)

「社会貢献活動をなぜ続けているのか」。『世界の貧困に挑む』著者、慎泰俊氏インタビュー。
慎泰俊(しん・てじゅん)
1981年東京生まれ。朝鮮大学校および早稲田大学大学院ファイナンス研究科卒。モルガン・スタンレー・キャピタル、ユニゾン・キャピタルを経て、2014年に五常・アンド・カンパニーを創業。途上国における金融包摂に従事している。認定NPO法人Living in Peace、日本児童相談業務評価機関を共同創設。『ルポ 児童相談所』(ちくま新書、2017年)、『外資系金融のExcel作成術』(東洋経済新報社、2014年)、『ソーシャルファイナンス革命』(技術評論社、2012年)など著書多数。