「社会貢献活動をなぜ続けているのか」。『世界の貧困に挑む』著者、慎泰俊氏インタビュー。

誰もが自分の運命を自分で決められるように、機会の平等を万人にもたらしたい。そのための「金融包摂」を世界で実現すべく、民間版“世界銀行”を目指す五常・アンド・カンパニー。同社を起業し、途上国でマイクロファイナンスを展開する慎泰俊氏。新著『世界の貧困に挑む』の著者インタビュー連載の最終回の3回目は、「社会貢献活動をなぜ続けるのか」について聞いた。(取材・文/ダイヤモンド社 論説委員 大坪 亮、撮影/鈴木愛子)

Bコープ認証を取得する意義
『ルポ児童相談所』を著した理由

――先程(連載2回目)お話しされた失敗を回避する方法論として、本書『世界の貧困に挑む マイクロファイナンスの可能性』では第三者のチェック・評価の重要性を説き、「社会的パフォーマンス管理(SPM)」と「インパクト測定・管理(IMM)」の関係から詳述されています。例として、顧客の経済的自由の拡大を目指すマイクロファイナンス機関が金融商品を提供し(インプット)、それが顧客の所得増につながり(アウトカム/アウトプット)、顧客の経済的自由が高まる(インパクト)とされています。

 1990年代から、マイクロフィナンス機関の社会的パフォーマンス評価を体系化する動きが始まりました。2005年にNGOやマイクロファイナンス機関、研究者、投資家、支援機関が参加して評価のためのタスクフォースが立ち上がり、マイクロファイナンスの「社会的パフォーマンス管理についての統一基準(USSPM)」が作られました。その後、環境保護関連の項目が追加され、監査制度が発展していきます。

――そうした監査制度の発展の経緯や、現段階での「社会的パフォーマンス指標監査(SPI Audit)」のチェック項目などについても本書で紹介されています。

 SPI Auditの項目のうち、顧客保護については認証制度が存在します。マイクロファイナンス機関は顧客保護基準を満たしているかの評価を専門の調査会社に依頼して、きちんとなされていると判断されると、「顧客保護認証」を受け取ることができます。

――これは、社会性と利益を両立する事業を展開する企業が受ける「Bコープ認証」に近いものですね。貴社は今年(2025年)、Bコープ認証を受けました。なぜ取得されたのですか。

 最もシンプルな理由では、当社のグループ会社はマイクロファイナンスのライセンスを持って事業をしているので先述の「顧客保護認証」が取得できますが、持ち株会社である五常・アンド・カンパニーはお客さんに融資はしていないので、その認証が取れないのです。持ち株会社として第三者による認証を取る意義があると考え、Bコープ認証を取得しました。ある意味で、健康診断みたいなものです。

 Bコープ認証のために、社内制度を整備するなど何かオペレーションを改善するということはありませんでした。正直にすべての質問に答えたらBコープ認証を取得できました。ただし、認証審査を通して、何が十分でないといったことが見えてきます。Bコープは3年1度の再認証審査を受ける必要があるので、人間ドックのように会社の状態を第三者機関によって定期的にチェックされることは有意義だと思います。

――経営者の一人よがりに陥らないように。

 そうですね。「良いことをしています」と自認するのは誰でもできます。それをちゃんと証明してくださいとなると、第三者の機関の審査を受けるのが良いかなと思っています。

――慎さんは多くの本を書かれています。単著の新書には『ルポ 児童相談所 一時保護所から考える子ども支援』(ちくま新書、2017年)があります。全国約10カ所の児童相談所を訪問し、100人以上の関係者をインタビューし、2つの一時保護所に住み込みして書かれています。「一時保護所の現状と課題点、課題解決の方向性を何としても伝えたいと思い」、同書を著したということですね。マイクロファイナンスとは違う分野での活動です。なぜこうした社会貢献活動を続けているのですか。

「なぜか」と聞かれると、いろいろなことをお話しています。日本で在日朝鮮人として生まれ、国籍は北朝鮮でも韓国でもなく、法律的に無国籍者なこと、そんなに豊かな家庭で育ったわけではなかったことなどです。

 ですので、「他の人と比べて厳しい条件で生きてきたことがために、機会の平等の実現に向けて活動するようになったのか」と聞かれると、「それは間違ってはいない」と答えるのですが、では私と同じようなバックグラウンドの人たちが同じようになっているかと言えば、そうではないわけです。

 なぜかを突き詰めて考えても、わからない面はあるんです。あえて言えば、「私はこういうことが好きだから」に尽きると思います。「世の中でこれは正しくないな、違うな」と思うことがあれば、それを改善することが私にとっては喜びを見出すことなのです。理不尽な社会がより良い場所になるためのアクションを取ることで、自分は喜びを得られる人間であるという面が大きいと思います。

 私は特に倫理的な人間というわけではなく、だらしないところも多々あります。だから、なんと言うか、たとえば画家が「絵を描くのが好きだったので画家になった」というのとあまり変わらないと思っています。

 多分これからも自分ができる範囲で、生きている限りはそういうことをするのだと思います。金融包摂の実現は、目下一つ目の注力分野です。児童養護や児童福祉関連が、もう一つの強い関心分野です。年をとってくれば体力も落ちていき、どこまでできるかは分かりませんが、一方で経験が増えていくので、それを使って自分がやりたいことをずっと続けていきたいです。

「社会貢献活動をなぜ続けているのか」。『世界の貧困に挑む』著者、慎泰俊氏インタビュー。『ルポ 児童相談所 一時保護所から考える子ども支援』 (慎泰俊著、ちくま新書、2017年)