
PHOTO: CHRISTOPHER MIMS/WSJ
これはありそうもない場所で、ありそうもない時期に開発された、ありそうもない技術だ。
アイオン・ストレージ・システムズの斬新な全固体電池のヒントになったのは、水素燃料電池技術だった。同社の電池は今、メリーランド州ベルツビルの工場で生産されている。米国は多くのエネルギー技術への投資を削減しているが、同社を主に支援しているのは米エネルギー省だ。
言い換えれば、エレクトロニクスに革命を起こす可能性のある新興の電池部門で、アイオンは注目すべき企業だということだ。
全固体電池――従来のリチウムイオン電池の中の液体を固体に変更した電池――はスマートフォンや電気自動車(EV)の性能を向上させる可能性がある。アイオンの異例の手法により、寿命が従来の電池の1.5倍かつ充電速度が大幅に向上した、破損時の発火の可能性がゼロに近い電池が生まれるかもしれない。
その一方で、そうした電池に取り組むスタートアップ企業や大手企業の期待は打ち砕かれてきた。採算がとれる全固体電池を作る努力は何十年も続いているが、特定の用途向け以外は実現していない。自動車メーカーは全固体電池メーカーとの提携を発表しているが、試験段階より先に進んだ企業はまだない。
調査会社ピッチブックのデータによると、投資家の失望は大きく、全固体電池メーカーへの世界のベンチャーキャピタル(VC)投資は2017年以来の低い水準になる見込みだ。
こうしたことは、アイオンが成功するとは思えない理由となっている。しかし、最近メリーランド州にある同社の試験工場を見学した筆者は――トヨタ・ベンチャーズや(米エネルギー省の)エネルギー高等研究計画局(ARPA-E)などの投資家も――見込みがあると確信した。アイオンが持てる力を発揮すれば、米国とその友好国・地域は、輸送・産業システムの電化競争で中国の大手電池メーカーを追い抜けるかもしれない。
アイオンは最近、試験を行っている潜在顧客に対し、完成した電池セルの出荷を開始した。そうした潜在的な顧客には、初期試験で同社のセルが使用に耐えると判断した米国防総省や、試験を行っていることを明らかにする用意がない電子機器メーカーなどが含まれている。アイオンはコストを下げるために必要な最初の一歩である製品の製造と出荷で一定の成果を示したことから、2000万ドル(約29億円)の補助金をARPA-Eから獲得している。