欧州の電池産業は勃興期にある。中でも、ノルウェーに本拠地を構える新興電池フレイル・バッテリー(FREYR Battery)は「提携戦略を駆使する」異彩ベンチャーとして知られる。2018年の創業からわずか3年で米ニューヨーク証券取引所に上場を果たし、量産前から巨額の資金調達に成功した。実は、フレイルのCTO(最高技術責任者)は、日産自動車や米ダイソンで電池技術の腕を磨いた日本人である。特集『戦略物資 半導体&EV電池』の最終回では、川口竜太氏にフレイル独特のビジネスモデルの要諦や欧州の電池産業について聞いた。(ダイヤモンド編集部副編集長 浅島亮子)
「一番ハイリスクな会社でチャレンジしたい」
日産、ダイソンから無名企業に転じた理由
――川口さんは豊田自動織機、日産自動車、米ダイソンと一貫して電池エンジニアの道を歩んできました。今でこそ上場を果たしましたが、無名だったノルウェーの新興電池メーカーへ転じたのはどうしてですか。
私のキャリアをざっくりと説明すると、前半10年が燃料電池、後半15年がリチウムイオン電池の開発などに従事していました。
フレイル・バッテリーに転じるきっかけは、端的に言えばダイソンをクビになってしまったからです(笑)。ダイソンの電気自動車(EV)プロジェクトが閉じることになってしまったので。でもタイミング的にはラッキーでした。コロナショック前でしたし、どこの企業も電池やEVのエンジニアは欲しいという時期でしたので。
自動車メーカー、電池メーカー、電池材料メーカー、商社など国籍問わず48社の面接を受けて、8社から採用のオファーをもらいました。
――ものすごいオファーの数ですね。その中で、最終的に新興企業のフレイルに決めたのはなぜですか。
当時、フレイルという会社の存在を知りませんでした。電池業界の世界マップを見ていて、ノルウェーにこんな会社があるのかと。ホームページでトム・アイナー・ジェンセンCEO(最高経営責任者)とチェアマンのアドレスが開示されていたので、履歴書と共に「私を採用する気はある?」と送ったら、「すぐに来てくれ」と返事が来た。3日後にはノルウェー・オスロに飛んでいました。
現地で丸1日議論して正式にオファーを受けました。しかもCTOという高いポジションを用意してくれると。他の企業の就職活動も進んでいたのですが、多くのオファーがありましたしクビになってもまた次を見つければいいという楽観的な気持ちがありました。ならば、一番ハイリスク、チャレンジングな企業に行こうと思いました。
何より面白いと思ったのが、フレイル特有のビジネスモデルです。
――どんなビジネスモデルですか。