対ウクライナ戦争で押し上げられ、制裁をものともしてこなかったロシア経済は、突如として現実の厳しい世界に戻りつつある。巨額の軍事支出と安定した石油輸出に支えられ、ロシアは過去2年間に主要国・地域で最も高い部類の経済成長率を記録した。しかし、最近の経済指標は危険信号を発している。製造業の活動は縮小し、消費者は財布のひもを締め、インフレ率は高止まりし、財政は逼迫(ひっぱく)している。ロシア当局者は今ではリセッション(景気後退)のリスクを公然と警告しており、トラクターから家具に至るまで、製造業者は生産を削減している。中央銀行は3日、6月の政策金利引き下げに続き、今月も引き下げを検討すると述べた。ウクライナを無力化するというウラジーミル・プーチン大統領の戦略上の焦点は、経済全体の健全性に対する懸念よりも優先されており、ロシア経済のエンジンが失速しても、そうした戦争目標が変わる公算は小さいとアナリストはみている。しかし景気減速は、プーチン氏の戦時経済の限界を露呈させるとともに、制裁で決定的な一撃を受けてはいないものの、次第に痛手が大きくなりつつあることを示している。制裁がさらに強化されるか、原油価格が下落した場合、ロシア経済は不安定化し始める可能性がある。