【星新一の名作】あなたの会社は大丈夫? 問題を“見えない穴”に捨てる人の末路
文芸作品を読むのが苦手でも大丈夫……眠れなくなるほど面白い文豪42人の生き様。芥川龍之介、夏目漱石、太宰治、川端康成、三島由紀夫、与謝野晶子……誰もが知る文豪だけど、その作品を教科書以外で読んだことがある人は、少ないかもしれない。「あ、夏目漱石ね」なんて、名前は知っていても、実は作品を読んだことがないし、ざっくりとしたあらすじさえ語れない。そんな人に向けて、文芸評論に人生を捧げてきた「文豪」のスペシャリストが贈る、文芸作品が一気に身近になる書『ビジネスエリートのための 教養としての文豪』(ダイヤモンド社)。【性】【病気】【お金】【酒】【戦争】【死】をテーマに、文豪たちの知られざる“驚きの素顔”がわかる。ヘンで、エロくて、ダメだから、奥深い“やたら刺激的な生き様”を大公開!
※本稿は、『ビジネスエリートのための 教養としての文豪』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。
イラスト:塩井浩平
「ショートショートの神様」は
財閥の御曹司
謎の穴、その底知れぬ魅力
最後にどんでん返しがあり、なおかつ社会風刺の効いた星新一作品といえば、『おーいでてこーい』が有名です。
舞台は、都会から離れた小さな村。台風で崖崩れが発生し、村にあった社が流されてしまいました。すると、その跡から1メートルくらいの穴が見つかったのです。
「みんなが集まってきたところには、直径一メートルぐらいの穴があった。のぞき込んでみたが、なかは暗くてなにも見えない。なにか、地球の中心までつき抜けているように深い感じがした」
『ボッコちゃん』(新潮文庫に収録)
村人たちは試しに「おーい、でてこーい」と呼びかけてみたり、石ころを投げてみたりしますが、穴の底に届いた感じはありません。
欲望を飲み込む、無限の処理場
この穴はビジネスに使えるとかぎつけたのは、「利権屋」です。いくらでもゴミを捨てられると喧伝すると、官庁も許可を出してしまいます。
「原子力発電所は、争って契約した。村人たちはちょっと心配したが、数千年は絶対に地上に害は出ないと説明され、また、利益の配分をもらうことで、なっとくした」
『ボッコちゃん』(新潮文庫に収録)
物語が映し出す、高度経済成長の光と影
この作品が発表されたのは、昭和33(1958)年です。昭和30(1955)年から昭和48(1973)年にかけての高度経済成長期で発生した公害問題を風刺しています。
熊本県水俣市で工場から排出された有機水銀が原因で発生した公害「水俣病」や、窒素酸化物や炭化水素が紫外線と反応して生成される有害な大気汚染物質「光化学スモッグ」など、日本の経済的成長の背景で、さまざまな公害問題が発生していたのです。
見過ごされた未来への「ツケ」
原子力を平和目的で利用することを定めた「原子力基本法」が定められたのも昭和30(1955)年のことです。これ以降、原子力発電所が地方の村に誘致されるようになり、1960年代には、国は原発の商業利用を推進しようと力を入れます。
産業が豊かになる一方で、原子炉の廃棄物の処理をどうするのかといった問題から、見て見ぬふりをしていた風潮を背景に、『おーいでてこーい』は書かれています。
なぜ星新一の作品は今も心を捉えるのか
こうした社会問題をいち早くとり上げ、さらに誰が読んでもわかりやすい寓話としてこれだけ短い作品のなかでまとめる。これこそ、星作品が長く読み継がれている所以だと思います。

