脳や体の健康を守るために
意識している3つのこと
さて冒頭で体力のピークはすぎたと言いましたが、それでも健康を維持することは大切です。50代になって脳や体の健康を守るため、意識して選んでいるものが3つあります。
ひとつは「主菜」。脳にはDHA(ドコサヘキサエン酸)という脂肪酸が多いことがわかっています。DHAは魚類の脂に豊富なオメガ3のひとつ。眼や神経組織の発達に重要な役割を担い、特に脳の神経細胞の死滅を防止するといわれています。ですから主菜を肉か魚かで迷ったら、魚。今の時期ならサンマがいいですね。
次にナッツに含まれるオレイン酸も、脳に良いといわれるので「おやつ」に迷ったら、アーモンドやくるみを食べています。ちなみに対局の朝もバナナとナッツなんですよ。
3つめは「飲料」。迷ったら「体脂肪を減らす」と表記された、お茶やノンアルコールを選んでいます。体脂肪が増えると、生活習慣病になってしまいますからね。風呂上がりや居酒屋で「とりあえずビール!」はやめています。
ひとつめから3つめまで“迷ったら”というのがポイントで、100%は求めていません。完全に何かを断つとか毎日続けるというスタンスでは苦しくなってしまいます。ですから何がなんでも肉が食べたい日や、どうしてもアルコールが飲みたい時は迷わずにそちらを選ぶ(笑)。ただし迷った時には健康にいいほうにしよう、ということ。
「タクシー」と「革靴」を止めた理由
藤井七冠も革靴を履かない
逆に年齢を経て減らしたことは、「タクシーに乗ること」と「革靴」です。活動量を増やすことで脳の働きが高まるとよくいわれますが、職業上、気をつけないと全然歩かなくなって運動不足になってしまいます。ですのでタクシーではなく電車に乗るようにし、革靴よりスポーツシューズで対局へ。
これも実は藤井七冠の影響ですね。彼は棋士になった時から革靴ではなくスポーツシューズを履いていました。単に好き嫌いの問題かもしれませんが。
若い人は体力があることに加え、「流動性知能」といって、いわゆる“ひらめき”に優れている面があります。一方で年を重ねるほど過去に得た経験を土台にする「結晶性知能」が高まっていくとされています。「経験がものをいう」という感覚で、先を見据え、勝負にこだわる熱い気持ちを盤上で表せば、それが私の世代の武器になるでしょう。
体力は全盛期より多少衰えても、なるべく脳や体の健康を維持して、新しいことに取り組んで結晶性知能を磨いていけば、将棋のピークをこれからつくることだって可能だと思います。まだまだ現役での活躍を目指します。
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