「うちの子、語彙が少ないのでは?」「自分の意見をちゃんと言えない」‥‥‥。スマホやSNSの普及により、子どもの「言葉にする力」の衰えを危惧する声が増えています。そんな中、『「うまく言葉にできない」がなくなる 言語化大全』(ダイヤモンド社)等のべストセラーで知られる文章の専門家・山口拓朗氏が、待望のこども版『12歳までに身につけたい「ことば」にする力 こども言語化大全』(ダイヤモンド社)を上梓しました。同書は、マンガと「言葉を使ったゲーム」を通じて、子ども(小学校低学年~高学年)が楽しく言語化能力を身につけられる画期的な一冊です。本連載では、本書をベースに親御さん向けの記事として抜粋・編集した記事や、著者による書き下ろし記事で、「子どもの言語化力」を高める秘密を紐解いていきます。

親が無意識でやりがち! 子どもの言語化力を奪う行動・ワースト1Photo: Adobe Stock

子どもの「お腹すいた」にどう対応していますか?

「お腹すいた」。

 子どもがそうつぶやいたとき、つい「カステラでも食べる?」「冷蔵庫にプリンがあるよ」と返してしまうことはないでしょうか。多くの親御さんが、無意識のうちにやっているこの対応。

 しかし実は、その優しさが、子どもの「思考力」や「言語化力」を奪っている可能性があるのです。

 ビジネスの現場では、「問題を先回りして察知し、解決策を提示する」ことが求められます。上司や取引先、クライアントなどに対し、前もって最適な選択肢を差し出す。それができる人ほど、仕事ができると評価されます。

 しかし、子育ての場面では、この「先回り力」が逆効果となりかねません。たとえば、「お腹すいた」という言葉。子どもがそう言ったとき、本人はまだ「何を食べたいのか」「どうしたいのか」を言葉にしていない状態です。にもかかわらず、親が先回りして答えを差し出してしまうと、子どもは「自分の気持ちや考えを探る→それを言葉にして伝える」プロセスを飛ばしてしまいます。

 では、どう対応すればいいのでしょうか?

 ひとつ有効なのが「『お腹すいた』がどうしたの?」という問いかけです。

漠然とした感覚に少しずつ輪郭が生まれ始める

 これは、子どもを責める言葉ではありません。子ども自身が、自分の気持ちや状態にきちんと目を向けて、言葉にしていくためのきっかけとなります。
 本当に空腹なのか、あるいは退屈なのか、それとも甘えたいのか。空腹だった場合も「夕食まで我慢できそう」なのか、「我慢できないからお菓子を食べたい」なのか。
 子どもの中で漠然としていた感覚に、少しずつ輪郭が生まれ始めるのです。

 子どもが「お腹すいたから……何か食べたい!」と返事をしたら、こんどは「何が食べたいの?」という問いを投げかけます。
 子どもはさらに自分の気持ちにアクセスし、「うーん、すっぱい果物が食べたい。みかんはある?」と言うかもしれません。自分の欲求を言語化できた瞬間です。

 この「自分の気持ちや考え、欲求などを言語化する力」は、将来のあらゆるコミュニケーション能力の土台となります。自分の感情や考えを整理し、他者に伝える力。まさに、社会に出てから必要とされるプレゼン力や課題解決力そのものです。

 親の役割は、こどもが言語化する機会を奪わないこと。
 つまり、勝手に先回りして、子どもの思考や感情を代弁しない、ということです。それをくり返してしまえば、子どもは「言語化しなくても望みは叶う」と学び、やがては他者依存が強まる可能性すらあります。

気持ちや考えを言語化できない大人になっても構わない」と考える親はいないでしょう。
 であれば、日常のちょっとした会話から言語化のクセをつけさせましょう。自分で言語化しない限り、目の前の現実は1ミリも動かない
 そんな感覚を、幼いうちから育てていくことが、大人になってからの生きる力につながるのです。

 *本記事は、『12歳までに身につけたい「ことば」にする力 こども言語化大全』(ダイヤモンド社刊)の著者山口拓朗氏による書き下ろしです。