「構想力・イノベーション講座」(運営Aoba-BBT)の人気講師で、シンガポールを拠点に活躍する戦略コンサルタント坂田幸樹氏の最新刊『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』(ダイヤモンド社)は、新規事業の立案や自社の課題解決に役立つ戦略の立て方をわかりやすく解説する入門書。企業とユーザーが共同で価値を生み出していく「場づくり」が重視される現在、どうすれば価値ある戦略をつくることができるのか? 本連載では、同書の内容をベースに坂田氏の書き下ろしの記事をお届けする。
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その「お客様」は、本当に意思決定者ですか
突然ですが、「学習塾のお客様は誰ですか?」と聞かれたら、あなたは何と答えるでしょうか?
教室に通っているのは子どもです。日々サービスを体験しているのも子どもでしょう。
しかし、塾を選び、月謝を払い、継続を判断しているのは、多くの場合、保護者です。
ここには、「サービスを実際に受ける人」と「お金を出し、決める人」が一致していないという構造があります。
このズレは、学習塾に限った話ではありません。実は、多くのビジネスで同じ構造が見落とされています。
「声を聞いているのに売れない」理由
売れない人ほど、こう言います。「ちゃんとお客様の声は聞いています」
しかし、その“お客様”は、本当に意思決定をしている相手でしょうか。
先の学習塾の例でいえば、「子どもの満足度」だけをどれほど高めても、それが必ずしも売上や継続には直結しません。
同様に、人事コンサルティングサービスを提供しようと、人事部門の担当者の声だけを丁寧に拾っていても、会社全体としての優先順位や意思決定にはつながらないことがあります。
営業支援ツールの提案でも同じです。
現場の使い勝手や運用上の課題を理解することは不可欠ですが、その声だけをもとに提案を組み立てても、話が前に進まない。最終決裁で止まる、予算がつかない、優先順位が上がらない。こうした事態が繰り返されます。
理由は単純です。声を聞いている相手と、決めている相手が違うからです。
「利用者」と「リアルカスタマー」は一致しない
多くのサービスでは、実際に使う「利用者」と、最終的に導入判断を下す「リアルカスタマー」は、異なる立場にあります。
日本企業では特に、この構造が複雑になりがちです。
現場は利便性を求め、管理部門はコストやリスクを気にし、経営は全体最適や戦略との整合性を考えます。
売れない人は、現場の不満や利用者の要望を一生懸命集めます。
一方で、成果を出す人は、「リアルカスタマーは誰か」「その人は何を見て判断しているのか」を見極めています。
決裁権を持つ人は、失敗したときの責任を負い、限られた予算の中で優先順位をつけ、組織全体への影響を考えています。この視点に接続されていない提案は、「いい話だが、決定打を持たない話」で終わってしまいます。
いくら内容が優れていても、意思決定者の関心や評価軸と噛み合わなければ、意味を持たないのです。
「声を聞く」前に、「誰の声か」を問い直す
成果を出す人は、最初にこう問い直します。「このサービスにおけるリアルカスタマーは誰か?」
そのうえで、「利用者の声」「現場の不満」「管理部門の懸念」を、意思決定者の文脈に翻訳していきます。
お客様の声を聞くこと自体が目的ではありません。意思決定を動かすために、どの声をどう使うかが重要なのです。
『戦略のデザイン』では、このように「リアルカスタマーをどう見極めるか」を、具体的な事例とともに整理しています。
IGPIグループ共同経営者、IGPIシンガポール取締役CEO、JBIC IG Partners取締役。早稲田大学政治経済学部卒、IEビジネススクール経営学修士(MBA)。ITストラテジスト。
大学卒業後、キャップジェミニ・アーンスト・アンド・ヤング(現フォーティエンスコンサルティング)に入社。日本コカ・コーラを経て、創業期のリヴァンプ入社。アパレル企業、ファストフードチェーン、システム会社などへのハンズオン支援(事業計画立案・実行、M&A、資金調達など)に従事。
その後、支援先のシステム会社にリヴァンプから転籍して代表取締役に就任。
退任後、経営共創基盤(IGPI)に入社。2013年にIGPIシンガポールを立ち上げるためシンガポールに拠点を移す。現在は3拠点、8国籍のチームで日本企業や現地企業、政府機関向けのプロジェクトに従事。
単著に『戦略のデザイン ゼロから「勝ち筋」を導き出す10の問い』『超速で成果を出す アジャイル仕事術』、共著に『構想力が劇的に高まる アーキテクト思考』(共にダイヤモンド社)がある。




