【解説】挫折の経験が育む
「真の共感力」とリーダーシップ
乱歩が「ニートのような生活」から一転して大作家となり、後進の育成に注力したというエピソードは、現代のリーダー像に大きな示唆を与えてくれます。
ビジネスにおいて、順風満帆なキャリアだけを歩んできた人は、時に他者のつまずきや弱さを理解しきれないことがあります。しかし、乱歩のように暗中模索の下積み時代を経験した人物は、才能が花開く前の若手の苦悩に深く共感し、そのポテンシャルを見出す「真の眼力」を持ち合わせています。
挫折や迷走の経験は決してキャリアの汚点ではなく、将来リーダーとして組織を牽引し、メンバーの背中を押すための強靭な土台(レジリエンス)となるのです。
個人の成功から業界の「エコシステム」構築へ
さらに注目すべきは、彼が私財を投じて「江戸川乱歩賞」を創設し、日本の推理小説界全体の底上げを図った点です。これは現代のビジネスに置き換えると、自社(自分)の利益やシェアだけを独占するのではなく、業界全体の未来を見据えた「エコシステム(生態系)」を構築する視点だと言えます。
自らが開拓した市場に次世代の才能を招き入れ、共にパイを大きくしていく。真に優れたビジネスパーソンは、一人のプレイヤーとして頂点を極めた後、自らが「プラットフォーム」となり、新たな才能が活躍できる土壌を作ります。
乱歩の数奇な人生は、自らの成功体験や資産をいかに次世代へ還元(ペイフォワード)していくかという、私たちが目指すべきキャリアの究極の到達点を教えてくれます。
※本稿は、『ビジネスエリートのための 教養としての文豪』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。







