JPモルガン・チェースの会長兼CEO ジェイミー・ダイモン氏Photo:Alexander Tamargo/gettyimages

 米著名投資家ウォーレン・バフェット氏による投資やビジネスへの助言は、同氏が長年 バークシャー・ハサウェイ を率いる中で、何千万人もの人々に影響を与えてきた。しかし、バフェット氏が「株主への手紙」を比類なき魅力的な読み物に仕立て上げたことこそが、彼の崇拝者の中でも特別な集団--すなわち同業の最高経営責任者(CEO)たち--に最も多大な影響を与えたのかもしれない。

 バフェット氏は昨年12月にバークシャーのCEOを退任し、最高幹部(および株主への手紙の執筆者)としての重責をグレッグ・アベル氏に引き継いだ。バフェット氏は自身の手紙に機知や個人的なエピソードをふんだんに盛り込んだが、それらはバークシャーについての必須の事業報告という枠を超えることが多かった。企業幹部らは、バフェット氏が米企業の「退屈な慣例」であった株主への手紙のレベルを高め、新たな基準を定めたと指摘する。自身の手紙執筆の腕前を向上させようとしているCEOたちがその域に達するのは、極めて困難な挑戦となっている。

「本当に骨の折れる作業だ」と語るのは、これまでに20回以上も株主への手紙を執筆してきた JPモルガン・チェース のジェイミー・ダイモンCEOだ。「書き終えたときには、心底ホッとする」

 ダイモン氏は若かりし頃、投資家のベンジャミン・グレアム氏とデービッド・ドッド氏の共著「証券分析」を読んだ。そこにはバフェット氏による序文が添えられていた。後にダイモン氏は、バフェット氏がバークシャーの株主や、前身の投資パートナーシップの出資者に向けて毎年送っていた手紙の存在を知ることとなる。

 ダイモン氏が常に感銘を受けてきたのは、複雑な金融の概念を平易な英語で説明するバフェット氏の卓越した才能だ。バフェット氏は2016年、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に対し、「自分の姉妹に宛てて書くような気持ちで執筆している」と語っている。「そのような人々は聡明(そうめい)で読書家であり、会社に多額の資金を投じている。金融の専門用語に精通しているわけではないが、かといって5歳児のような扱いを受けることも望んでいない」

 ダイモン氏は「常にそれを見習おうとしてきた」と話す。

 バフェット氏の手紙は時に12ページ以上に及ぶが、その読者は株主だけにとどまらない。実際、手紙に記され、頻繁に引用されてきた、「他者が貪欲になっているときに恐れを抱き、他者が恐れを抱いているときにのみ、貪欲になろうとするべきだ」「米政府に背く賭けはするな」といった「オマハの賢人」の金言は、ほとんどあらゆる投資家のバイブルとなっている。

 もちろん、複雑な事象を簡潔に書くのは、見かけほど簡単ではない。

 ダイモン氏の場合、そのプロセスには数カ月を要するという。1月の休暇前に手紙の構成案を固め、何回かの週末を使って手紙を書き上げる。その後、自身の言葉に間違いがないか、JPモルガンという巨大な金融帝国の各部門の従業員たちと入念なファクトチェックを行うのだ。