活躍している人たちを見て羨ましく感じた経験は、誰しも一度や二度はあるはずだ。彼らのようになりたくて、「自分は何ができるだろうか」と考えてみるものの、自分ではよくわからず、能力を発揮できないままの人も少なくないだろう。独立研究者で著作家の山口周氏は、書籍『人生の経営戦略』「考えるべきは、『自分の強みは何か?』ではない」と指摘する。その言葉の意味とは何か。本書の内容をもとに解説する。(文/神代裕子、ダイヤモンド社編集局)

人生に悩む若い女性

なぜ「自分より優秀な人ばかり」に見えてしまうのか

 活躍している人を見て、「自分には何があるのだろう」と考えたことはないだろうか。

 筆者はフリーランスとして仕事をするようになり、その感覚を強く抱くようになった。

 企画力も文章力も高い人に出会うたび、「これは敵わない」と感じてしまう。

 そういった優秀な人々と会うたびに「私は一体何を頼りに生きていけばいいのか」と絶望的な気分になる。そんな厳しい世の中を生き抜いていくヒントをくれるのが本書だ。

 人は、何を強みにして生きていけばいいか。そんな筆者の悩みに応えてくれている章があったので紹介したい。

評価されるのは「能力の高さ」ではない

 ビジネスにおいて、「リソース・ベースド・ビュー(=以下RBV)」という考え方があるそうだ。

 これは「企業の競争力は、その企業の有する独自の資源や能力で決まる」というもの。具体的には、次の4つの条件を満たした資源や能力を確保することで、競争優位を確立できると考えられている。

有用性(Valuable):市場機会を捉え、競合と対抗する上で有用であること
希少性(Rare):競争相手が容易に獲得できない希少性があること
模倣困難性(Inimitable):他の企業が容易に真似できないこと
代替不能性(Non-substitutable):他の資源で代替できないこと(P.186)

 これらの条件の中で、山口氏は特に「希少性」「模倣困難性」「代替不能性」に着目している。

これらはひっくるめて表現すれば、RBVでは、保有している能力や資源の「量」や「質」ではなく、その能力や資源の「調達困難性」が重要だと言っているのです。(P.187)

 つまり、個人のライフ・マネジメント・ストラテジーに当てはめると、多くの人が身につけるために時間資本を投資しているような流行りの資格や学位や知識は、希少性がない。

 RBVの戦略的観点からすると、最も時間資本を投資してはいけない対象と言える。

着目すべきは「強み」より「欠点」

 では、我々は何に着眼すればいいのか。

 山口氏は、「競争優位の形成に貢献する資源の条件が『調達困難性』にあるのであるとすれば、結論は明白である」と言い切る。

私たちは「自分の強みは何か?」という問いについて考えるのを止めて、「他の人にはない、私のユニークな特徴は何か?」という問いについて考え、そして、その特徴をどうやってキャリアや仕事につなげられるかを考えるべきだ、ということになります。(P.188)

 さらに、山口氏は「『その人ならではの特徴』は、往々にして『弱み』に直結していると言える」と語る。

 例えとして、山口氏はアメリカ出身のジャズトランペット奏者のマイルス・デイヴィスの「カインド・オブ・ブルー」を挙げている。

「カインド・オブ・ブルー」は、史上もっとも売れたジャズアルバムだと言われていますが、あの抑制の効いたクールな演奏は、当時流行していた、ジョン・コルトレーンやチャーリー・パーカーのように超絶技巧で吹きまくるスタイルができない、言うなれば「マイルスの下手さ」によって生み出されています。マイルスがライバルに嫉妬して「自分の弱点を克服する」と奮起して練習などしていたら、あの傑作アルバムは生まれなかったのです。(P.189)

 弱みを特徴と捉えてうまく伸ばせば、他にはない魅力になるという例だ。

 山口氏は、自分で自分をプロデュースする上で重要なのは「欠点を矯正する」ことではなく「ユニークな点を伸ばす」ことだと指摘する。

 なぜなら、社会で評価されるのは「平均点」ではなく、他人には真似できないユニークさだからだ。

 このユニークさは、往々にして本人が考える「欠点」と表裏一体なのだという。

 私たちはつい、「苦手は克服しなければならない」と思いがちだ。できるだけ、得意不得意の凸凹がない方が苦労しない。そんな考えが親にも、そして自分たちにもあったように思う。

 しかし、欠点がユニークさにもつながると思うと、「できない自分」も悪くないように思えてくる。

本当に見るべきは「長く続けてきたこと」

 さらに山口氏は、「自分の強みとは何か?」と考えること自体、ミスリーディングであると指摘する。

 なぜなら、私たちの自己評価は非常に強い上方バイアスがかかる傾向にあると、これまでの研究からわかっているというのだ。

・90%の人は自分が平均以上に運転が上手だと思っている
・60%の学生はコミュニケーション能力の上位10位に入ると思っている
・90%の教授は自分が平均以上に業績を上げていると思っている(P.191)

 このように、私たちは「自分は何が得意か」という判断について、相当ポンコツな精度の判断能力しか持っていないらしい。そのため、そこを軸にキャリア選択を考えると、大きな間違いを犯す可能性がある。

 そこで、山口氏が提案するのは、「強み」ではなく「特徴」を抽出することだ。それを見つける方法として、彼は「長く続けてきたことに着目する」ことを挙げている。

「調達困難な資源や能力」とは「時間資本を大量に投下しないと獲得できない資源や能力」のことですから、ひとつの考え方として、着眼するべきなのは「長く続けてきたこと」だということになります。(P.192)

 確かに、なんの苦労もなく長年続けられることというのは、その人の能力が高い部分とも言える。

 技術や能力の高い・低いだけを基準に考えると、世の中を生き抜いていくのはなかなか大変だ。

 しかし、自分にしかない特徴を見つけ出すことができれば、そこを必要としてくれる人がいるに違いない。

 キャリアは「何が得意か」では決まらない。「何を続けてきたか」で決まる。

 まずは自分の過去を棚卸しし、そこにある“繰り返し”を見つけることが出発点になるのだ。