「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』。「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。じっくり人生を振り返る人も多いこの時期に、この本に込めた、著者の山口さんのメッセージを聞きました(構成/小川晶子)。
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9割の人が仕事に意味を見出せていない
――モチベーション高く仕事に向かうことができれば能力も発揮しやすいと思うのですが、そもそもモチベーションが上がらない場合、どこに問題があるのでしょうか。
山口周氏(以下、山口): その仕事の意味ややりがいを見出せていないのであれば、モチベーションが上がらなくて当然です。いわゆる「クソ仕事」をモチベーション高くできる人はいませんからね。
ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの社会人類学教授、デヴィッド・グレーバーが著書『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』で指摘したのは、社会に何の価値も生み出していない「ブルシット・ジョブ」が社会に蔓延しており、それらの仕事に携わっている人々の精神が蝕まれているということです。
同様の問題を指摘するリサーチは増加傾向にあります。たとえば社員意識調査の大手、ギャロップ社によれば「仕事に対して前向きに取り組んでいる」と答える従業員は全世界平均で13%です。リクルートによる「働く喜び調査」では、「働く喜び」を感じていると答えた人は全体の14%となっています。
その他の調査も含めてまとめれば、ざっくり9割の人が自分の仕事を「どうでもいい」と思っており、「仕事の意味」や「やりがい」を見出せていないということが示唆されているのです。
モチベーションは最も希少な経営資源になった
――それにしても、9割もの人が自分の仕事を「どうでもいい」と思っているとは衝撃です。モチベーション高く仕事をしている人は少ないのですね。
山口: 現在の社会ではモチベーションという資源が希少化しているんです。近年、投資家が組織の状態に関する情報を強く求めるようになっていますが、これにはモチベーションという経営資源の希少化という問題が絡んでいます。
2024年2月、コンサルティング会社のマッキンゼーは、「組織風土の健全性が長期パフォーマンスを予測する上で最も説明力がある」とするレポートを発表しました。この指摘自体は組織研究者のあいだでは昔から知られていたことですが、いまだに有効であることが確認されたという意味で重要なレポートです。
どのような時代、社会においても、個人や組織の競争優位は、希少化している資源にアクセスできるかどうかで大きく変わります。もし現在の社会でモチベーションという資源が希少化しているのであれば、これを獲得・創出できる個人や組織は、大きなアドバンテージを持つことになります。
やる気を生み出す企業、やる気を失わせる企業
――どうすればモチベーションという資源を生み出せるのでしょうか。
山口: モチベーションを生み出す最も重要な要素の一つは「その組織が掲げているビジョン」であることがわかっています。その組織が、人を共感させるようなビジョンを掲げているのであれば、その組織の士気は高まり、組織風土が活性化される。一方で、ビジョンが掲げられていない、あるいは掲げられていても曖昧だったり共感できないものであったりすれば、その組織の士気は停滞し、組織風土は不活性になります。
そして、『人生の経営戦略』の「CSV競争戦略」で述べたとおり、「社会的価値を実現すれば経済的価値は自ずと実現される」というのが、近年の研究の多くが示していることです。
端的に言えば、社会的価値の創造を目指すというビジョンは、組織風土の活性化に効くんです。ハーバード・ビジネス・スクールのロバート・エクルズ他の研究では、サステナビリティポリシーを設定し、これを厳格に実行している企業の長期財務パフォーマンスは、そうでない企業と比較して2.2~4.5%高かったということが明らかになっています。
――モチベーション高く仕事するためには、社会的価値の創造をビジョンとして掲げている組織を選ぶのがいいわけですね。逆に、優秀な人がやる気を失いような組織もあるのでしょうか。
山口: そうです。そのような組織が、最も希少な資源となっているモチベーションを集めることに成功し、成長・繁栄し続ける可能性が高いからです。
たとえ短期的な業績が良くて給料が高いなど待遇が良かったとしても、その組織が共感できるような社会的ビジョンを掲げていない、あるいは掲げていてもそれを本気で実行しているように思えないのであれば、そのような組織に居続けるのは得策ではありません。
人生は超長期にわたるプロジェクトですから、長期的な環境変化のトレンドを押さえておくことは重要です。
自分で意義を見つける工夫も必要
――でも、すぐに転職できない場合もあります。今の職場でモチベーションを保つにはどうすればいいでしょうか。
山口: その仕事の中に、自分の人生にとっての意義や面白さを見つける工夫をすることです。たとえば、あらゆる提案を受け入れず変わろうとしない保守的な組織にいるとしたら、「保守的な組織はどのように作られるのか?」と研究者のつもりになって観察し、その研究結果を次のキャリアに活かすことを考えるとか。愚痴をこぼすだけでなく、その場でできることを考えてとにかく動くことだと思います。
マネージャーなのであれば、単に目の前の仕事で設定されたKPIの数値を高め、生産性を上げようとするのではなく、仕事に意味を与え、携わる人からモチベーションを引き出すことが大切です。希少な資源となっているモチベーションを作ることができるのはすごい能力ですからね。ぜひこの能力を磨いてみてください。
(この記事は、『人生の経営戦略』に関連した書き下ろしです)





