「してみたいこと」があっても、「失敗したら恥ずかしい」と思って、なかなか踏み出せない人も多いのではないだろうか。「もっと準備ができてから」と考えがちだが、独立研究者で著作家の山口周氏は、書籍『人生の経営戦略』「『とにかくたくさんアウトプットを出す』ことが大事」と語る。それはなぜか。本書の内容をもとに解説する。(文/神代裕子、ダイヤモンド社編集局)

人生で成功を収めた人物Photo: Adobe Stock

「完璧な準備」という罠。筆が進まない本当の理由

 突然だが、筆者は基本的に腰が重い。

「この企画、あのメディアに持ち込んだら……」と頭の中で練るものの、一向に筆が進まない。あるいは、受講した講座の講師から「とにかく書け」と助言されても、最初の1本が踏み出せない。私自身、そんな「腰の重さ」に悩まされてきた。結局、アイデアは形にならぬまま後回しにされてしまう。

 それは、時間がないという理由もあるのだが、何より「きちんとしたアウトプットを作らないといけない」という気持ちが働いていることも大きいように思う。

 そのため、脳内ではあれこれ考えているのに、筆は一向に進まないという状況に陥ってしまっているのだ。

ダ・ヴィンチも実践した、創造性の「鉄板アプローチ」

 山口氏は、そういった創造性に関する鉄板のアプローチとして「とにかくたくさんアウトプットを出すこと」を挙げる。

 このことは、創造性に関する過去の研究の多くに共通して示されているという。

 カリフォルニア大学デービス校の組織心理学者のディーン・キース・サイモントンは、ダ・ヴィンチ、ニュートン、エジソンなど、あらゆる時代のイノベーター2000人のキャリアを分析し、結論として次のように指摘している。

多くの人は「イノベーターは成功したから多くを生み出した」と考えている。しかしこれは論理が逆立ちしている。実際のところはその逆で、彼らは「多くを生み出したから成功した」のである。(P.225)

 いわゆる「数打ちゃ当たる」という話だが、ここでのポイントは「良いものだけを狙って当てるのは、プロでも不可能だ」という点にある。

バッハの曲も9割は演奏されない。「傑作」は数%の現実

 一方で、たくさんアウトプットをしたところで、大半は何の役にも立たないものになってしまい、「ろくなものを生み出せない人間」として見られてしまうのではないかという懸念を持ってしまう。

 しかし、サイモントンの研究によれば、科学者や芸術家が生涯で最も優れたアウトプットを出す時期は、生涯で最も多くアウトプットを出す時期と重なっている。そして同時に、その時期は「最もダメな作品が生まれる時期」でもあることがわかっているという。

アインシュタインが残した300の論文のほとんどは、現在、誰からも参照されていませんし、バッハの残した1000以上の曲のうち、今日でもコンサートで演奏されているのは定番の30~50曲程度でしかありません。(中略)
つまり、単純な比率で計算すれば、歴史に残る天才であっても、傑作と言われるようなアウトプットは全体の数%程度でしかないのです。(P.227)

 山口氏は、アウトプットにおける「リターンとロスの非対称性」にも注目する。

 極めて優れた成果がもたらす巨大なリターンに対し、ダメなアウトプットがもたらす損失は、実は極めて小さい。この「非対称性」を理解することが、人生の経営戦略における肝となる。

 その理由はこうだ。

なぜそういうことになるかというと「極めてダメなアウトプット」は無視され、すぐに忘れられるのに対して、「極めて優れたアウトプット」は、その人の社会資本を一気に厚くして、生涯にわたって金融その他の資本の形成に貢献してくれるからです。(P.230)

 つまり、人生の経営戦略において重要なのは、「打率」ではなく「打席数」というわけだ。

若者こそ「多打席」に立つべき、合理的な理由

 さらに、山口氏によると、「優れたアウトプットのもたらすリターン」と「ダメなアウトプットのもたらすロス」の非対称性は、年齢が若ければ若いほど大きいという。

 人生の早いタイミングでホームランが出ると、その後の長い期間、社会的な評価や信用としてリターンを得られるが、失敗のダメージは小さく、早期に忘れられる。

 一方で、人生の遅いタイミングでホームランが出ても、残りの期間が短い分、リターンも小さくなる。失敗した場合のダメージも若い頃に比べて大きく、責任を求められるのだ。

 確かに、年を重ねるほど、若い頃と同じ失敗をしても、笑って済ませてはもらえなくなる。そうならないためにも、なるべく若いうちにたくさん打席に立つ、というのが合理的な戦略と言える。

打席に多く立てば打率も上がる

 よく「過去と他人は変えられない」と言われるように、自分の努力で変えられないことに力を入れても意味がないと知っている人は多いだろう。

 この「できるだけ多く打席に立つ」というのもこれと同じだ。

 いい結果を出そうと思うと、どうしても「打率」が気になってしまう。もちろん、打率を上げる方法を考えるのも大事ではあるが、運に左右されることも多いし、打率を上げるというのはなかなか難しい。

 一方で、「打席の数」に関しては、自分たちの意識次第で増やすことはできる。「まずは形にするぞ!」と思うことができれば、いくらでも打席数は増やしていけるのだから。

 さらに心強いことに、山口氏は「失敗し続けるのは、意外と難しい」と語る。

例えば、「打率1%」という人が「1打席」でヒットを打つ確率は言うまでもなく1%ですが、これを100打席にすると、ヒットが出る確率は63.4%となります。
これがさらに打率が一割になれば、100打席に立って一度もヒットが出ない確率は0.1%以下となり、つまりは「ほぼ確実にどこかでヒットが出る」ということになります。(P.233-234)

 打席に立ち続けていれば、いずれ打率も上がってくるということだ。

「何かしらの成果を出したいなら、つべこべ言わずに打席に立つ」。

 これは耳が痛い教訓であると同時に、凡人が唯一、天才と渡り合える「希望」の戦略でもある。まず何か一つ、不完全なままでも世に出すことから始めてみたい。