想定問答も用意した。受け答えも淀みない。なのに、なぜか落ちる。多くの人は「もっとうまく自己PRすれば受かる」と思っている。だが、面接官が落とす理由は、たいてい受け答えの出来とは別のところにある。
「株式会社yutori」をアパレル業界で史上最年少で上場させ、200名以上の社員を束ねる経営者、ゆとりくんこと片石貴展氏は、ある志望動機を聞いた瞬間に「この人は採れない」と感じるという。片石氏の新刊、『自分の言葉で話せるようになりましょう。』は人生のあらゆる場面で自分らしく生きるために必要なことを盛り込んだ一冊だ。一生懸命話しても響かない人と、少し話して心を動かす人の違いは何だろうか。(構成・ダイヤモンド社淡路勇介)

自分の言葉で話せるようになりましょう。Photo: Adobe Stock

ワースト1は「御社の理念に共感しました」

意外に思うかもしれない。だが片石氏に言わせれば、「御社の理念に共感しました」「成長できる環境だと思いました」といった、優等生的で淀みのない志望動機こそ、もっとも危うい。
このような志望動機・自己PRを聞いたことはないだろうか。

御社は『挑戦と革新』を企業理念に掲げていらっしゃいます。僕も学生時代に
サークルのリーダーとして、前例のない◯◯という取り組みに挑戦した経験があ
ります。その経験を活かして御社に貢献したいと思います

このような自己PRは、たいてい落ちます。

『自分の言葉で話せるようになりましょう。』p174より

なぜこのような志望動機は落ちるのだろうか。それは、自分の言葉になっていないだからだ。
理念に共感した、と話す人に、「では、うちで具体的に何をやりたいんですか」と踏み込むと、途端に言葉が薄くなる。片石氏は言う。

人間は、借り物の言葉を簡単に嗅ぎ分けることができます。
“挑戦と革新”“前例のない取り組み”“貢献したい”
全部、企業のウェブサイトや就活マニュアルから借りてきた、だれでも使える言葉。
本人の身体を通っていない言葉だから、面接官の心にも届きません。

『自分の言葉で話せるようになりましょう。』p177より

どこかから借りてきた立派な志望動機ではなく、自分の身体を通った言葉。
たとえ拙くても、「過去にこういう経験をして、だから自分はこの仕事がしたい」と、自分の文脈に紐づけて語れる人。その言葉にだけ、面接官は体温を感じ、記憶に残る。

立派な言葉を借りてきて、自分を大きく見せようとするほど、面接官の心には何も残らない。
逆に、たどたどしくても自分の言葉で話せる人の言葉には重みがあるのだ。
これは面接に限った話ではない。恋愛でも、子育てでも、もちろんビジネスでも。

一度、本棚から借りてきた言葉を捨ててみる。立派な話をしようとしない。
自分の言葉を取り戻すために、まずはそこから始めてみてもいいのかもしれない。

(本稿は、片石氏の著書『自分の言葉で話せるようになりましょう。』〈ダイヤモンド社〉の内容および著者への取材をもとに構成したものです)

片石貴展(かたいし・たかのり/ゆとりくん)
株式会社yutori 代表取締役社長
1993年生まれ。神奈川県出身。
大学卒業後、新卒でモバイルゲームなどを手掛けるITベンチャーに入社。その後、自身のルーツである古着カルチャーを起点に、Instagramのコミュニティメディア「古着女子」を立ち上げ、2018年に初期資本金10万円で株式会社yutoriを創業。「ハグレモノをツワモノに(TURN STRANGER TO STRONGER)」をミッションに掲げ、ミレニアル世代・Z世代を中心とした複数のアパレルブランド(9090など)をプロデュース。2023年12月には創業からわずか5年8ヶ月で東京証券取引所グロース市場へ上場を果たし、アパレル企業として「史上最年少上場」の快挙を成し遂げる。2024年に元AKB48の小嶋陽菜氏が手掛ける「Her lip to」を展開する株式会社heartrelationをグループ化し、2026年には同社を完全子会社化。現在では年商140億円を超
える企業へと成長する。
SNSやYouTubeなどのメディアでは「ゆとりくん」名義で発信。ファッション、ビジネスから、スピリチュアルまで、領域を超えて軽やかに語る姿が「言語化力すごい!」と話題に。