「AIに自分の仕事を奪われるのでは…」と不安を感じていませんか。過去の歴史が示す通り、技術革新で雇用は消滅せず、仕事の中身が変わるだけです。本記事では、雇用の変化を紐解き、AI時代に取り残されずに生き抜くヒントを紹介します。

結局、AIに仕事は奪われるのか?「雇用の歴史」から読み解く分かれ目Photo: Adobe Stock

技術革新は
「雇用の中身」を変える

 AIの急速な進歩を目の当たりにして、多くの人が疑問を抱き始めている。それは、「このAIという技術は、私たち人間の仕事を奪ってしまうのではないか?」という問いである。

 確かに、AIは日々進化している。チャットGPT(ChatGPT)に代表される生成AIは、自然な文章を作成し、膨大なデータを一瞬で分析し、ビジネス文書やプログラムコードすら自動で出力してしまう。

 これまで専門職の領域と考えられていた仕事でさえ、「AIで代替できるのではないか」という声があがるようになっている。SNSやニュース、職場での会話でも、「このままでは自分の仕事がなくなるのでは?」という不安が広がりつつある。

 2024年にIMF(国際通貨基金)が発表した報告書の内容を紹介しよう。IMFの分析によれば、先進国では全雇用のうち約60%がAIの影響を受ける可能性があるとされている。

 ここで重要なのは、そのうちの「半数程度」は、AIとの協働によって生産性が向上し、労働者自身も恩恵を受けると見込まれている点である。

 たとえば、会計士や金融アナリスト、編集者、弁護士補助といった職業では、AIによる資料作成や分析支援によって業務効率が飛躍的に高まり、人間はより高度な判断や創造的業務に集中できるようになる。

 しかし一方で、残る「半数程度」の業務については、AIが中核業務を担うようになることで、人間の役割が縮小し、労働需要そのものが減少するリスクがあると指摘されている。こうした場合には、賃金の低下や雇用の削減が避けられないかもしれず、極端なケースでは一部の職業が完全に消滅する可能性すらある。

 では、AIによって仕事は本当になくなるのだろうか?

 AIによって仕事がなくなる。そんな不安を持つことは自然だ。しかし、歴史を振り返れば、技術革新が経済全体の雇用を長期にわたって一方向に減らし続けた、という明確な証拠は乏しい

 たとえば、1970年代から普及が始まったATM(現金自動預払機)は、銀行の窓口業務を自動化するものであり、当時は「銀行員が不要になる」と騒がれた。

 だが、結果は逆であった。ATMの導入によって、1支店当たりの人件費は削減されたものの、その分だけ銀行はより多くの支店を開設することができ、雇用の総量はむしろ増加した(*1)。

*1 Autor, D. H.(2015) “Why Are There Still So Many Jobs? The History and Future of Workplace Automation,” Journal of Economic Perspectives, 29(3): 3-30(https://www.aeaweb.org/articles?id=10.1257/jep.29.3.3).

また、1980年代以降に登場したパソコンとワープロソフトの普及も、秘書業務や文書作成に従事する人々の仕事を奪うと予想された。

 だが実際には、パソコンを使いこなす「新しい秘書」や「IT事務職」が登場し、仕事の内容は変化したが、雇用は消えなかった。

 こうした事実は、技術革新が人間の仕事をすべて奪ってしまうという「テクノロジー悲観論」に対して、一定の歴史的な反証を提供している。

 実際、近年の経済学の実証研究でも、長期的に見れば、技術進歩が大規模な失業をもたらしたという証拠はほとんど見つかっていない。地域ごとの自動化導入と雇用変化を比較した研究でも、「雇用が完全に消えた」わけではなく、産業構造が変わる中で新たな仕事が登場していることが確認されている(*2、3)。

*2 Acemoglu, D. and Restrepo, P.(2020a) “Robots and Jobs: Evidence from U.S. Labor Markets,” Journal of Political Economy, 128(6): 2188-2244(https://www.journals.uchicago.edu/doi/abs/10.1086/705716).
*3 Acemoglu, D. and Restrepo, P.(2020b) “The Wrong Kind of AI? Artificial Intelligence and the Future of Labour Demand,” Cambridge Journal of Regions, Economy and Society, 13(1): 25-35(https://academic.oup.com/cjres/article-abstract/13/1/25/5680462).

 確かに、製造業などでは人員削減が進んだ。しかし、その一方で、サービス業やIT分野、テクノロジーを活用する新興産業では、まったく新しい職種や業務が次々と生まれている。つまり、技術革新は「雇用を破壊する」のではなく、「雇用の中身を変える」と言うべきだろう。

 さらに、人口減少で人手不足が深刻化する日本にとっては、AIやロボットによる代替は、労働力不足を補う役割が期待される。したがって、むしろ前向きに捉えるべき側面が大きい。

 もっとも、だからと言って「すべてがうまくいく」と楽観視するのは危うい。なぜなら、社会全体では長期的に雇用は維持されるとしても、個々の労働者は大きな影響を受けるからである。そして技術革新には必ず「移行期」が伴う。

 ある職業が急速に不要となったとき、その職に就いていた人がすぐに新しいスキルを習得し、別の産業に移ることができるとは限らない。

 特に、高齢の労働者や、教育機会の限られた人々、地方に暮らす人々にとっては、変化に適応するのは簡単ではない。たとえば、熟練の製造業者が、数カ月の研修でAIエンジニアに生まれ変わることができるかと言えば、その答えは明らかだろう。

 こうした「移行の困難さ」こそが、技術進歩に対する不安や反発の源泉となっている。実際、過去の技術革新やグローバル化の過程では、その恩恵を受けられなかった地域や人々が取り残され、政治的不安や社会的分断が広がってきた。AIに対しても、同じような構図が再び繰り返される恐れがある。

 しかも、今回のAI革命が「これまでと違う」と言われるのには、いくつかの理由がある。

 第一に、AIは「思考」や「判断」といった人間の本質的な能力領域にまで踏み込んできているという点である。かつての機械やロボットが人間の筋力を代替したのに対し、生成AIは言語、創造性、計画といった知的活動すら一部代替できるようになっている。

 第二に、進化のスピードが桁違いに速いことである。チャットGPTが公開されてからわずかな期間で、数億人規模のユーザーが業務に利用し始めた。このペースはかつてのパソコンやスマートフォンの普及速度をはるかに上回っている。

 第三に、AIの影響がホワイトカラーの中心領域にまで及んでいることである。これまでの技術革新の影響は、どちらかと言えばブルーカラー職に集中していたが、今回は、教育、金融、行政、メディアといった中上層職の仕事すら代替可能とされている。

 こうして見ると、「今回は違う」という感覚は決して錯覚ではないかもしれない。だが、それでも私たちは、過去の経験から学ぶことができる。テクノロジーが雇用を変えてきた歴史と同じように、AIもまた、新たな職業と働き方を生み出すポテンシャルを秘めている。

 問題は、仕事がなくなるかどうかだけではない。仕事の中身が変わるとき、誰がその変化についていけるのか? そして、誰が移行期に取り残されるのか? AI時代の本当の分かれ目は、そこにある。

(本稿は、『AI大格差』(日本評論社)の一部を抜粋・編集したものです)