キャリアアップのために資格を取る、話題のスキルを学ぶ――多くのビジネスパーソンが実践している「自己投資」です。しかし『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』の著者・山口周さんは、「流行りの資格や学位を取るのは、最もやってはいけない時間資本の使い方」と警告します。いま世界で起きている「AI人材の報酬の暴騰」の意外な理由とあわせて、あなたの市場価値を本当に決めているものについて聞きました。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)

成果を出せない人が、共通して「学ぶこと」・ワースト1Photo: Adobe Stock

市場価値は「能力の水準」では決まらない

――労働市場における「自分の価値」を高めるために、スキルを身につけたり資格の勉強をしたりしている人は多いと思います。労働市場における価値は何によって決まるのでしょうか?

山口周氏(以下、山口):「それは能力や知識の水準だ」と考える人もいるかもしれませんが、残念ながらこの答えは不十分です。どんなに素晴らしい能力や知識でも、需要に対して過剰に供給されれば、価値は認められないからです。

「市場における価値」は「能力や知識の水準」ではなく「需要と供給の関係」によって決まります。

私たちはスキルを身につけるとき、「そのスキルがどれくらい労働市場で評価されているか」ばかりに目を向けがちですが、本当に考えるべきは「そのスキルを持っている人はどれくらいいるのか? この先どれくらい増えるのか?」なんです。これは非常に重要な点です。

「流行っている」=「これから供給が激増する」

――「流行りの資格」は危険ということでしょうか。

山口:「流行っている」ということは、この後で供給量が大きく増加することを意味します。供給量の増加が予測されるスキルの獲得に時間資本を投資するのは、戦略として悪手というしかありません。

これは株式投資と同じです。人気になっている銘柄の株価は上がりますが、手を出せば「高値掴み」のリスクが高まる。知識やスキルなどの人的資本に関しては、流行しているテーマに手を伸ばすよりも、むしろ積極的に逆バリすることが求められるとも言えるでしょう。

AI人材の報酬が暴騰した「本当の理由」

――いま、AI関連は人気が高いですが今から学ぶのでは遅いわけですよね。

山口:現在、AI関連人材の報酬の暴騰が世界で起きています。なぜここまで報酬水準が上がっているかというと、需要に対して圧倒的に供給量が足りていないからです。

供給量が足りない理由は単純で、「まったく人気がなかったから」です。1980年代の第二次AIブームが去った後、1990年代の「AIの冬の時代」に人工知能研究は下火になり、関連する学位を取る学生も激減しました。人材の供給が大幅に細ったところへ第三次ブームがやってきたので、需要に対して供給が大幅に不足する状況が生まれたんです。

つまり、いまAI人材が高給を得ているのは、それが「人気の学位やスキル」だったからではなく、まったく逆で「不人気の学位やスキル」だったからなんですよ。

――子どもたちにプログラミングを学ばせるのも流行っています。

山口:学ぶこと自体悪くはないのですが、「これからはSTEMだ」と言って流行りを追うのは注意して考える必要があります。ある学位やスキルが流行するということは、これから先の人生で常に、同年代の労働市場において供給過剰のスキルになるということでもあるのです。