「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。新年度を迎えるこの時期に、この本に込めた、著者の山口さんのメッセージを聞きました(構成/小川晶子)。

優秀な若手がどんどんやる気を失っていく組織の特徴・ワースト1Photo: Adobe Stock

若年層で「経験のデフレ」が起きている

――「今の職場ではチャレンジが少なく、あまり自分が成長している感じがしない、やる気を失っている」という若者が多いそうです。この悩みに対して、山口さんはどんなアドバイスをされますか?

山口周氏(以下、山口):とくに若い人にとって、「職場で新しいチャレンジをする機会がない」のは現代の日本社会・組織の問題なんですよ。

本来、組織にとって「経験」は資源であり、企業はヒト・モノ・カネといった経営資源と同様に「経験」についても、最も大きなリターンの期待値をもつ対象に投資するべきものです。この場合、最も大きなリターンの期待値をもつのは、「できるだけ若い人」です。これからのキャリアが長いからです。

ところが、現在の日本企業はその意識が薄い。全体的に非常に過保護になっており、若い人を自由に働かせて思いっきり失敗させるということがなかなかできません。そのうえ、日本企業は1990年前後のバブル期に大量採用を行っており、多くの組織で50代の「花のバブル入社組」の層が厚いんです。

よほど意識的に「質の良い仕事」を若い人に回して行かないと、若年層で「経験のデフレ」が起きることになります。

たとえば、グループ企業の経営の立て直しといったことは良質な経験ができる貴重な機会です。本来なら、この先のキャリアが長い30代前半の人にやらせるべきなんです。でも、定年が近い年長者にこういった機会を与えてしまっているのが日本企業の実状ですね。

「すべて想定通りうまくいっている」と成長が止まる

山口:教育心理学者のデイヴィッド・コルブが提唱した「経験学習理論」というものがあります。これによれば、学習は「具体的経験」→「内省的観察」→「抽象的概念化」→「活動的実験」という4つのステップで成り立っていて、このサイクルが一回転することで人は成長します。

人間を一種の情報処理システムだと捉えると、何か入力があって、自分の中で処理をして、何らかの出力を返すわけですが、学習や成長というのはこの情報処理のシステム自体が変わるということなんです。分かりやすく言うと「自分が変わる」ということですね。

「学習」とは、新しい知識を身につけるとか、何かができるようになることだと考えがちですが、それは部分的な定義でしかありません。自分が変わって、以前よりも優れたアウトプットができるようになることが究極的な「学習」の定義です。

ポイントは、学習の起点となる「経験」とは「予測しなかった結果に出会うことができる機会」だということです。つまり、「こうなるはずだ」と思ってやったことが、思いがけず想定外の結果を招いたとき、人は成長のきっかけを得るのです。

――慣れた仕事をして、安定した成果を出し続けているだけでは、成長が止まってしまうということでしょうか。

山口:その通りです。すべてが想定通りにうまくいっているという状態は、実は危険な兆候ですね。「学習の停滞した状態」と言い換えることができるからです。

よく「この道20年の経験があります」と言う人がいますが、経験学習理論の観点から言うと、最初の1年の経験と、あとは同じことを19年繰り返しているだけという可能性があるんです。

自ら機会を創り出す

――今の職場では新たな経験の機会が少ないとしたら、どうすればいいのでしょうか。

山口:リクルート創業者の江副浩正さんの言葉に「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」というものがあります。まさにこれです。良質な経験を得られる機会を座して待つのではなく、能動的に自ら創り出していく姿勢が必要なんです。

たとえば、新しいプロジェクトを提案してみる、他部門との横断的な仕事を提案してみる、社外の活動に参加してみるといったことです。従来の職務範囲を超えた挑戦に踏み出すということですね。

このようなアドバイスをすると、「自分には権限がないから動けない」と言う人がいるんですが、これは考え方が逆です。むしろ動き出さないから権限が与えられないんですよ。組織におけるパワーというのは一種の現象であり、その現象は「自ら動く人」の周囲に発現するのです。

もう一つは、『人生の経営戦略』で紹介している「イニシアチブ・ポートフォリオ」の考え方です。つまり、本業を続けながら副業をするということですね。

組織内で新しい経験の機会が得られないのであれば、組織の外で経験の密度を上げていくことです。

(この記事は、『人生の経営戦略』に関連した書き下ろしです)