「あなたは人生というゲームのルールを知っていますか?」――そう語るのは、人気著者の山口周さん。20年以上コンサルティング業界に身を置き、そこで企業に対して使ってきた経営戦略を、意識的に自身の人生にも応用してきました。その内容をまとめたのが、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』「仕事ばかりでプライベートが悲惨な状態…」「40代で中年の危機にぶつかった…」「自分には欠点だらけで自分に自信が持てない…」こうした人生のさまざまな問題に「経営学」で合理的に答えを出す、まったく新しい生き方の本です。新年度を迎えるこの時期に、この本に込めた、著者の山口さんのメッセージを聞きました(構成/小川晶子)。

【あなたは大丈夫?】30代まで優秀だったのに、人生後半で転落する人の特徴・ワースト1Photo: Adobe Stock

第一線を退くことへの恐怖

――『人生の経営戦略』では、さまざまな経営学の知見を人生に活用するための具体的なヒントをたくさん示してくれています。今回は、「人生の後半」について教えてください。いま活躍している人も、いつか役職を離れるなど第一線を退くときがくるわけですが、どうすればその変化を受け入れられるのでしょうか?

山口周氏(以下、山口):これは非常に重要な問いですね。どんなに活躍し、大きな業績を残した人であっても、キャリアのどこかで第一線を退くタイミングはやってきます。50代で役職定年や早期退職で離れる人もいれば、経営者として長い期間第一線にとどまってから引退する人もいますが、いずれにしてもいつか必ずそのタイミングが来ます。

問題は、平均寿命が延びたことで、第一線を退いてからの時間が非常に長くなっているということです。いまは平均寿命が90歳近く、近い将来100歳を超えるでしょう。ですから、第一線を退いてからの時間のクオリティが、人生全体のウェルビーイングに大きく影響するんです。

賞賛依存症という罠

――活躍してきた人ほど、その立場を手放すのは難しい気がします。

山口:その通りです。とくに30代、40代の「人生の夏」において高い業績を上げ、組織の中で賞賛されてきた人ほど、手放すのが難しい。

なぜかというと、「賞賛依存症」「達成依存症」とでも言うべきものにかかってしまうからです。中でも、従来の「支配型リーダーシップ」を発揮して組織を引っ張り、与えられた目標を達成し、賞賛されるということをやってきた人ほど、この依存症にかかりやすいことがわかっています。

依存症は、ウェルビーイングの実現において最も忌避すべき問題の一つです。これを克服しない限り、人生後半のステージにおけるウェルビーイングの達成はおぼつきません。

賞賛される立場を手放したくなくて、いつまでも居座ろうとすると、いわゆる「老害」になってしまいますよね。そうなる前に自分からステージを移りたいところです。

支援的なリーダーシップを発揮する

――どうすれば克服できるのでしょうか。

山口:ここで重要になるのが「サーバントリーダーシップ」です。これは、アメリカの研究者ロバート・グリーンリーフが提唱した概念で、権力に頼らない「支援的なリーダーシップ」のことです。

典型的なのはイエス・キリストです。復活祭のときに教会へ行くと「足を洗う」という儀式がありますが、あれはもともと、リーダーであるイエスが弟子の足を洗ってあげるシーンに由来しているんです。相手に奉仕しながら導いていくリーダーですね。

「支配型リーダーシップ」は、名声を得る、権力を得ることがモチベーションで、部下を権力に基づいて動かし、自分が賞賛されることを重視します。

一方、「サーバントリーダーシップ」は、他者に成功してもらう、他者の成長を支援することがモチベーションで、対話や共感を通じて行動を促し、背中を押した相手が活躍して賞賛されることを重視するんです。

知性には二つの波がある

山口:サーバントリーダーシップは、年を取ることで高まる知性「結晶性知能」と相性がいいんです。

心理学者レイモンド・キャテルによれば、人間の知性には「流動性知能」と「結晶性知能」の二つの種類があります。

「流動性知能」は、過去の経験や学習に依存せず、論理的に考えたり、パターンを見つけたりする知的能力のことです。「流動性知能」は20歳前後にピークが来て、40代以降は急速に低下します。

「結晶性知能」は、過去の経験や学習によって蓄積された知識やスキルを活用する知的能力です。複雑なアイデアをわかりやすく説明する、混乱した状況で適切な意思決定を行う、といった際に有効です。この能力は年を追うごとに向上し、50代から60代にピークを迎え、その後も高い状態を維持します。

つまり、頭の良さには人生で二回ピークが来るんです。20代と50代。この二つの山を使い分けることが重要になります。

――人生の後半では、結晶性知能を使いながら「サーバントリーダーシップ」を発揮していくことが大事だということでしょうか。

山口:そういうことです。依存症に駆動された支配型リーダーシップを手放し、蓄積した知識、知恵と経験を活かして他者を支援するサーバントリーダーシップによって人的資本と社会資本をさらに充実させ、「人生の秋」以降の持続的なウェルビーイングを実現できるんです。

確かに、このシフトは容易なことではありません。一時的な痛みや苦しみが伴うでしょう。でも、この転機を乗り越えれば、とても豊かな後半のステージが待っているんです。

サーバントリーダーシップを発揮している方にお話を聞くと、「人生でいまが一番充実している」とおっしゃいますよ。

(この記事は、『人生の経営戦略』に関連した書き下ろしです)