どうすればお金をかけずに、売上や利益をもっと増やせるのか? この切実なお悩みに答えるのが、人気の販促コンサルタント・岡本達彦氏の最新刊『客単価アップ大事典 「つい買ってしまう」販促の仕掛け75』(ダイヤモンド社刊)です。同書は、「行動経済学×現場目線」で「つい買いたくなる」販促の仕掛けとは何かを言語化した初の書。本書が提示するのは、「お客様の購買行動そのものを変える設計とは?」です。どうすれば、「利益が残る経営」へと変われるのか? 本連載では、『客単価アップ大事典』に収録しきれなかった事例の中から、現場ですぐに導入でき、成果につながりやすい客単価アップの仕掛けを厳選してご紹介していきます。
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長期間使った商品の返品を認めたほうが、
高額なマットレスが売れやすくなる理由
インターネットでマットレスを探していると、「100日間、自宅でお試しできます」「実際に寝てみて、合わなければ返品できます」という案内を見かけることがあります。
商品によっては、開封して何日も使用した後でも、決められた期間内であれば返品や返金を申し込めます。通常の商品であれば、一度開封して使用すると、購入者の都合による返品は難しくなります。
ましてマットレスは、毎晩、体に触れながら使用する商品です。大きくて重いため、返品時の回収にも手間や費用がかかります。
「100日も使った商品を返品されたら、マットレス販売会社は損をするのでは?」
そう思う人もいるでしょう。
実は、長期間の返品保証は、返品を増やすためのサービスではありません。
オンラインで高額なマットレスを買う際にお客様が感じる、「自分の体に合わなかったらどうしよう」という不安を取り除き、購入の決断を早めるための仕組みです。
さらに、一度自宅へ届いたマットレスを毎日使うと、新しい寝心地が生活の一部になります。
返品するには、連絡や回収日の調整なども必要です。その結果、お客様は「いつでも返品できる」という安心を持ちながら、実際には商品を使い続けやすくなります。
つまり、100日間の返品保証は、返品による一部の負担を引き受ける代わりに、購入を迷っている多くのお客様を注文へ進める販促の仕掛けなのです。
マットレスは、
店頭で数分寝ただけでは選べない
マットレスは、見た目や商品説明だけで自分に合うかどうかを判断しにくい商品です。
硬さ、沈み込み方、寝返りのしやすさ、腰や肩への負担、隣で寝る人の振動などは、実際に寝てみなければ分かりません。店頭で横になって試すことができたとしても、確認できるのは数分程度です。
服を着たまま、店員やほかのお客様がいる場所で横になるため、自宅で眠るときと同じ状態で試せるわけでもありません。
その場では、「ちょうどよい硬さだ」と感じても、一晩寝ると体が沈みすぎることがあります。
反対に、店頭では少し硬く感じたマットレスでも、何日か使ううちに体が慣れ、寝返りがしやすいと感じる場合があります。
また、マットレスの寝心地は、一晩だけで決まるとは限りません。それまで使っていた寝具との違いに体が慣れるまで、一定の時間が必要になることもあります。気温や湿度、寝る姿勢、その日の体調によっても感じ方は変わります。
そのため、マットレスを本当に試すには、展示された商品に数分横になるのではなく、自宅で普段どおり何日も眠る必要があります。
100日程度の試用期間は、単に返品できる日数を長く見せるためだけではありません。
お客様が実際の生活の中で寝心地を確認できるようにし、「短時間では判断できない商品を、試さずに買わなければならない」というオンライン購入特有の不安を小さくしているのです。
返品できると分かると、
「買うかどうか」ではなく「試すかどうか」に変わる
高額なマットレスをインターネットで購入するとき、お客様が心配するのは価格だけではありません。
「硬さが合わなかったらどうしよう」
「腰が痛くなったら困る」
「写真で見た印象と違うかもしれない」
「失敗しても、大きすぎて簡単には処分できない」
といった不安があります。
返品できない商品であれば、お客様は購入前にすべての不安を解消しなければなりません。
口コミを何度も読み、ほかの商品と比較し、店舗で試せる商品を探します。それでも確信を持てなければ、
「今使っているマットレスで、もう少し我慢しよう」と購入を先延ばしにします。
一方、「100日間、自宅で試して、合わなければ返品できる」と分かれば、判断の内容が変わります。
「このマットレスを買ってよいか」ではなく、「まず自宅で試してみるか」と考えられるようになるからです。
購入を最終決定にするのではなく、試用を始めるための仮の決定に変えることで、注文するときの心理的な負担が小さくなります。
お客様は、失敗したときの出口が用意されているからこそ、今まで選べなかった高額な商品にも挑戦しやすくなります。
マットレス販売会社は、「返品できる安心」を販売前に見せることで、商品を売り込む前に、購入しない最大の理由を取り除いているのです。
自宅に置いて毎日使うと、
返品するほうが面倒になる
返品保証があっても、すべてのお客様が期間の終了直前まで返品するかどうかを悩み続けるわけではありません。
マットレスが届くと、お客様は箱から出し、ベッドへ設置し、シーツや敷きパッドをかけて使い始めます。
古いマットレスを別の場所へ移したり、処分したりする人もいるでしょう。そして毎晩、新しいマットレスで眠ります。何週間も使って大きな問題がなければ、そのマットレスが寝室にある状態が当たり前になります。すると、お客様の意識は、
「このマットレスを買うかどうか」ではなく、「今使っているこのマットレスを手放すかどうか」へ変わります。
返品する場合は、会社へ連絡し、返品条件を確認し、回収日を調整しなければなりません。回収後に使用する寝具も改めて用意する必要があります。
商品を注文するときには簡単に感じた返品でも、実際に毎日使っている状態から元へ戻すとなると、手間が大きく感じられます。
また、人は一度自分のものとして使い始めた商品に対して、使用前よりも価値や愛着を感じやすくなります。寝心地が以前より少しでもよくなり、
「朝起きたときに楽になった」
「隣の人の寝返りが気にならなくなった」
「もう以前のマットレスには戻りたくない」
と感じれば、手放す理由はさらに小さくなります。
100日間の返品保証は、お客様に長く迷わせる制度ではありません。安心して使い始めてもらい、その商品が生活の一部になるまで体験してもらう仕組みでもあるのです。
返品条件を明確にすることで、
店側の負担も管理できる
100日間や120日間のトライアル制度があっても、すべての商品を、どのような理由でも無条件で返品できるとは限りません。対象となる商品、試用できる期間、最低使用日数、返品できる理由、商品の状態、申し込み方法などは、会社によって異なります。
例えば、一定期間以上使用してから返品を申し込むことや、汚れや破損がないことなどが条件になる場合があります。
サイズを間違えて注文した場合や、寝心地とは関係のない理由では、返品できない制度もあります。
このように条件を明確にしておけば、
「一晩だけ使って、すぐに返す」
「複数の商品を同時に注文し、簡単に比較して返す」
「汚したり傷つけたりした商品を返品する」
といった利用を抑えられます。
また、短期間で違和感を覚えたお客様に対しても、体が新しい寝心地に慣れるまで一定期間試してもらうことで、すぐに返品されることを防げる場合があります。
返品保証は、何でも受け入れる約束ではありません。お客様には十分に試せる安心を提供しながら、会社側は対象や条件を決めることで、返品の負担を管理できるようにしているのです。
一部の返品費用より、
購入を諦める人を減らす効果を優先する
長期間使用したマットレスの返品を受け付ければ、会社には回収や返金などの負担が発生します。それでも返品保証を用意するのは、保証がないことで購入を諦めるお客様のほうが多いと考えられるからです。
例えば、返品保証がなければ、100人のお客様が商品に興味を持っても、「合わなかったときが心配だから買わない」という理由で、多くの人が購入をやめるかもしれません。
一方、返品保証を付けることで購入する人が増え、その多くが商品に満足して使い続ければ、一部の商品が返品されても、全体では販売数を増やせる可能性があります。
さらにオンラインを中心に販売する会社にとって、長期間の自宅試用は、店舗の展示スペースに代わる役割も持っています。全国各地に大きな売り場を用意しなくても、お客様の自宅を体験場所にできます。
お客様にとって、自宅は店頭よりも実際の使用環境に近い場所です。マットレス会社は、「購入してからでなければ、本当の寝心地を試せない」というオンライン販売の弱点を、「購入後、自宅で長期間試せる」という強みに変えています。
返品を完全になくそうとするのではなく、一部の返品にかかる費用を、購入前の不安をなくすための販促費として考えているのです。
他のお店でも使える
「使ってから最終判断してもらう」設計
・高級オフィスチェア販売店
一定期間、自宅や職場で椅子を使用できるトライアル制度を用意する。店頭で数分座っただけでは分からない、長時間作業したときの腰や肩への負担を確認してもらい、高額な椅子を購入する不安を小さくする。
・補聴器店
購入前に一定期間、日常生活の中で補聴器を試せるようにする。静かな店内だけでなく、家族との会話、テレビ、屋外、飲食店などで聞こえ方を確認してもらうことで、実際の生活に合うかどうかを判断してもらえる。
・法人向け業務システム
一定期間、実際の業務データや担当者で試せる無料期間を設ける。説明やデモを見るだけでは分からない使いやすさを日常業務の中で確認してもらい、導入後に使いこなせない不安を減らす。
まとめ
マットレス会社が、100日間使用した商品でも返品を受け付けるのは、お客様への親切や商品への自信を示すためだけではありません。
・店頭で数分横になっただけでは判断できない寝心地を、自宅で普段どおり眠りながら確認できるようにし
・「合わなければ返品できる」という出口を用意することで、高額な商品を買って失敗する不安を小さくし
・購入の判断を「この商品に決めるか」から「まず自宅で試すか」に変えることで、注文への心理的なハードルを下げ
・何週間も毎日使うことで商品が生活の一部となり、『返品するか』ではなく『手放すか』という判断に変わりやすくなり
・対象商品や最低使用日数、商品の状態などの条件を設けることで、十分な試用期間を提供しながら返品の負担を管理し
・一部の返品にかかる費用よりも、購入前の不安を理由に注文を諦めるお客様を減らす効果を優先する
という、返品できる安心によって購入を促し、自宅での長期体験によって継続使用へつなげる販促の仕掛けなのです。
販促コンサルタント
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他の著書に、『お客様に聞くだけで「売れない」が「売れる」に変わるたった1つの質問』
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