どうすればお金をかけずに、売上や利益をもっと増やせるのか? この切実なお悩みに答えるのが、人気の販促コンサルタント・岡本達彦氏の最新刊『客単価アップ大事典 「つい買ってしまう」販促の仕掛け75』(ダイヤモンド社刊)です。同書は、「行動経済学×現場目線」で「つい買いたくなる」販促の仕掛けとは何かを言語化した初の書。本書が提示するのは、「お客様の購買行動そのものを変える設計とは?」です。どうすれば、「利益が残る経営」へと変われるのか? 本連載では、『客単価アップ大事典』に収録しきれなかった事例の中から、現場ですぐに導入でき、成果につながりやすい客単価アップの仕掛けを厳選してご紹介していきます。
Photo: Adobe Stock
撮影前には買うつもりがなかった写真まで
欲しくなる理由
七五三や入学、成人式などの記念に写真館を利用すると、さまざまな衣装や背景、ポーズで何枚もの写真を撮影してもらえます。
撮影後、モニターに並んだ写真を見ながら、
「この笑顔は残したい」
「家族全員で写っている写真も欲しい」
「祖父母に渡す分も作りたい」
と、購入する写真を選びます。
ところが、撮影した写真がすべて料金に含まれているとは限りません。
写真、データ、台紙、フォトフレーム、アルバムなどを必要に応じて選び、その内容に応じた商品代金を支払う料金体系の写真館があります。
「たくさん撮影したのだから、すべてのデータを渡してくれてもよいのでは?」
そう思う人もいるでしょう。
実は、こうした写真館では、「撮影するサービス」と「写真を残す商品」を分けて販売しています。撮影前に必要な枚数を決めてもらうのではなく、実際に撮れた表情を見た後で、どの写真を、どのような形で残すかを選んでもらいます。
つまり、写真館は撮影した枚数を売っているのではありません。撮影によって生まれた一枚一枚の思い入れを、写真、データ、台紙、アルバムなどの商品へ変えて販売しているのです。
撮影前には、
欲しい写真の枚数を決められない
写真館を予約する段階で、お客様が考えているのは、
「七五三の記念写真を一枚残したい」
「成人式の振袖姿を撮っておきたい」
といった漠然とした希望です。
まだ撮影していないため、どのような表情やポーズの写真が撮れるか分かりません。
その状態で、
「何枚購入しますか?」
「何ページのアルバムにしますか?」
と聞かれても、必要最小限の商品を選びやすくなります。
ところが、撮影後に実際の写真を見ると、判断基準が変わります。
正面を向いた記念写真だけでなく、
・自然に笑っている写真
・家族で顔を見合わせている写真
・兄弟姉妹が一緒に写っている写真
・衣装や背景が違う写真
・本人らしい仕草が写った写真
など、それぞれに異なる魅力があります。
撮影前には「一枚あれば十分」と思っていても、撮影後には、「一枚に絞れない」という状態になるのです。写真館は、価値がまだ見えていない撮影前ではなく、価値を実感できる撮影後に購入内容を決めてもらいます。
商品を見せてから売るのではなく、欲しくなる写真を先に作ってから、残し方を選んでもらう仕組みなのです。
「わが子の写真」は、
単純に比較できない
一般的な商品であれば、似た商品を比較し、必要性の低いものを買わないという判断ができます。
しかし、家族の記念写真は、同じものを後から撮り直すことができません。子どもの表情、その日の衣装、家族の年齢、兄弟姉妹との関係などは、その瞬間にしか残せないからです。
そのため、お客様は写真を選ぶとき、「この写真は必要か」という実用性だけでは判断しません。
「この表情を消してしまって後悔しないか」
「今しか撮れない姿を残さなくてよいのか」
と考えます。
人は、得られるものよりも、失うものを大きく感じる傾向があります。これは「損失回避」と呼ばれます。
気に入った写真を一度見た後では、購入しないことが、「写真を買わない」ではなく、「二度と手に入らない思い出を手放す」ように感じられます。
その結果、予定していた枚数より多く購入したり、選んだ写真をすべて収められるアルバムへ変更したりしやすくなるのです。
たくさん撮るほど、
「一枚だけ」という選択が難しくなる
写真館では、一つのポーズだけでなく、衣装、背景、表情、家族構成などを変えながら、複数のパターンを撮影することがあります。
選択肢が増えると、通常は迷いが大きくなります。
しかし写真の場合、その迷いが購入をやめる方向だけに働くとは限りません。
「正面の写真と、笑っている写真のどちらにするか」
「一人の写真と、家族写真のどちらを残すか」
「和装と洋装のどちらを選ぶか」
と比較しているうちに、どちらにも異なる役割があると感じるからです。
正面の写真は正式な記録として必要で、笑顔の写真は本人らしさを残すために欲しい。本人だけの写真も必要ですが、家族全員の写真も今しか撮れません。
比較すればするほど、一枚がほかの一枚の代わりにならないことに気づきます。そこで、
「無理に一枚へ絞るより、両方残そう」
「写真を追加するなら、アルバムにまとめよう」
「祖父母用の台紙も作ろう」
という判断が生まれます。
撮影パターンを増やすことは、単にサービスを充実させるだけではありません。購入する理由が異なる写真を増やし、買上点数を自然に増やす役割も持っているのです。
撮影直後は、
写真への感情が最も高まっている
撮影後に写真を選んでもらうもう一つの理由は、その瞬間がお客様の気持ちが高まっているタイミングだからです。
衣装を選び、着付けやヘアメイクを行い、家族で撮影を終えた直後には、
「無事に撮影できてよかった」
「こんな表情もするようになったのか」
「成長した姿をきちんと残したい」
という満足感や感慨があります。
その状態で完成イメージの写真を見ると、単なる画像データではなく、今日一日の体験や家族の思い出と結びついて見えます。
同じ写真でも、数日後に冷静な状態で見る場合より、撮影直後のほうが価値を強く感じやすくなります。写真館は、この感情が高まっているタイミングで、
・写真だけにするか
・データも残すか
・台紙やフォトフレームにするか
・アルバムへまとめるか
・祖父母用の商品も作るか
を選んでもらいます。
写真そのものだけでなく、撮影によって生まれた感情まで商品選びに反映されるため、当初の予定より充実した商品を選びやすくなるのです。
撮影料を低く見せることで、
最初の来店障壁を下げられる
写真館の料金は、撮影料と商品代金が分かれていることがあります。
撮影料には、撮影、衣装、着付け、ヘアメイクなどが含まれ、写真、データ、台紙、アルバムなどは別の商品として販売されます。内容は写真館やプランによって異なります。
もし予約の段階で、アルバムやデータなどを含む高い総額だけを提示すると、「写真撮影に、そこまでお金をかけなくてもよい」と来店を見送られる可能性があります。
一方、撮影料を入口として提示すれば、「この金額なら、まず撮影してもらおう」と考えやすくなります。
そして撮影後、実際の写真を見ながら、必要な商品を追加してもらいます。
これは、撮影料だけを安く見せればよいということではありません。最終的に何が含まれ、どの程度の総額になる可能性があるのかを、事前に分かりやすく示すことが重要です。
料金体系を明確にしたうえで、
撮影を予約する
↓
複数の写真を撮る
↓
写真に思い入れが生まれる
↓
残したい写真を選ぶ
↓
枚数に合った商品やアルバムを選ぶ
という順番を作ることで、来店前の心理的な障壁を下げながら、撮影後の購入額を高められるのです。
他のお店でも使える
「体験後に購入内容を決めてもらう」設計
・観光施設
プロのカメラマンがアトラクションや体験中の自然な表情を撮影し、終了後に写真を見せて購入してもらう。体験前には買う予定がなかった人にも、その場でしか撮れない一枚を購入する理由が生まれる。
・ゴルフ場
プレー中のスイングや仲間との写真を撮影し、終了後に写真やデータとして販売する。実際の写真を見てから選べるため、記念性の高い写真を追加購入してもらいやすい。
・ペットサロン
トリミング後のペットを複数の背景や小物で撮影し、仕上がりを見せた後に写真、データ、カレンダーなどを選んでもらう。飼い主の満足感が高まったタイミングで、記念商品を提案できる。
まとめ
写真館が、撮影した写真をすべて自動的に渡さず、選んだ写真や商品に応じて販売する場合があるのは、データを出し惜しみするためだけではありません。
・撮影前ではなく、実際の表情や仕上がりを見た後に購入内容を決めてもらうことで、写真の価値を実感してから選べるようにし
・一度見た気に入った写真を手放すことへの「損失回避」により、予定していた枚数より多く残したい気持ちを生み
・衣装、背景、表情、家族構成の異なる写真を用意することで、一枚では代用できない複数の購入理由を作り
・撮影直後の感情が高まっているタイミングで、データ、台紙、アルバムなどの残し方を提案し
・撮影料と商品代金を分けることで、最初の来店障壁を下げながら、撮影後に必要な商品を追加してもらう
という、写真を撮る前に枚数を売るのではなく、写真への思い入れが生まれた後に「どの思い出を、どの形で残すか」を選んでもらう販促の仕掛けなのです。
販促コンサルタント
現場目線ですぐ使えるマーケティングを伝える第一人者。
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他の著書に、『お客様に聞くだけで「売れない」が「売れる」に変わるたった1つの質問』
『あらゆる販促を成功させる「A4」1枚アンケート実践バイブル』
『「A4」1枚チラシで今すぐ売上をあげるすごい方法』『「マンダラ広告作成法」で売れるコピー・広告が1時間でつくれる!』(以上、ダイヤモンド社)等がある。




