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なぜクルーズ会社は、旅行が終わる前に「次の旅行」を売るのか?Photo: Adobe Stock

船旅の満足感が残っているうちに、
次の予約を取る理由

 クルーズ旅行をしていると、船内で次回のクルーズを案内されることがあります。船内には次回の旅行を相談できる窓口が設けられ、乗船中に予約すると、

「次回の船内で使えるクレジットがもらえる」
「通常より少ない予約金で申し込める」
「希望する客室を早く確保できる」

 といった特典が用意されている場合があります。

 なかには、次に乗る船や出発日をその場で決めなくても、次回予約の権利だけを押さえられる仕組みもあります。

「まだ今回の旅行も終わっていないのに、なぜ次の旅行を売ろうとするのだろう?」

 そう思う人もいるでしょう。

 実は、クルーズ会社が船上で次回予約を勧めるのは、単に予約を早く確保したいからではありません。

 お客様が船旅の魅力を最も強く感じている瞬間に次の旅行を提案し、帰宅後に購入意欲が下がる前に、次回の乗船を決めてもらうためです。

 さらに、特典として渡す船内クレジットによって、次回の乗船中に新たな追加注文まで生み出します。つまり、船上予約は、今回の旅行への満足を、次の旅行とその先の船内売上へつなげる販促の仕掛けなのです。

旅行から帰ると、
「また乗りたい」という気持ちは薄れていく

 クルーズ旅行中のお客様は、日常とは違う時間を過ごしています。海を眺めながら食事をし、寄港地を観光し、船内のショーやイベントを楽しみます。

 旅行に満足すると、

「次は違う航路にも乗ってみたい」
「今度は家族や友人も連れてきたい」
「次はもう少し広い客室に泊まってみたい」

 という気持ちが自然に生まれます。

 しかし、旅行が終わって自宅へ戻ると、仕事や家事などの日常が始まります。次の旅行について考えようとしても、

「休みを取れるか分からない」
「もう少しお金をためてからにしよう」
「ほかの旅行先も比較してみよう」
「今すぐ決めなくてもよいだろう」

 という理由が出てきます。

 時間がたつほど、船内で感じていた楽しさや高揚感も少しずつ薄れていきます。

 そして、次の旅行を調べること自体が後回しになり、結局予約しないまま終わることもあります。そこでクルーズ会社は、お客様が船旅を楽しんでいる最中に、次の旅行を提案します。

 お客様が、「また乗りたい」と思った瞬間と、実際に予約する瞬間の間を空けないようにしているのです。

行き先を決めなくてもよくすると、
予約のハードルが下がる

 旅行中に次のクルーズを提案されても、その場で出発日や航路まで決められる人ばかりではありません。

 仕事の予定を確認したり、一緒に旅行する家族と相談したりする必要があるからです。そこで一部のクルーズ会社では、具体的な旅行内容を決めずに、次回予約の権利だけを確保できる制度を用意しています。

 例えば、乗船中に一定の予約金を支払い、後日、期限内に出発日や航路を選ぶ仕組みです。これなら、お客様が船内で決めることは、「いつ、どこへ行くか」ではありません。

「次も、このクルーズ会社を利用するか」ということだけになります。

 具体的な日程や客室まで選ぶとなると、判断する項目が多くなります。しかし、次回の特典を受け取る権利だけであれば、決断の負担は小さくなります。

 さらに、予約金が通常より少なく設定されていれば、「少額で次の旅行の選択肢を残せるなら、押さえておこう」と考えやすくなります。

 クルーズ会社は、旅行のすべてをその場で決めてもらうのではなく、最初の小さな決断だけをしてもらうことで、次回予約の入口を作っているのです。

少額でも予約金を払うと、
次も同じ会社を選びやすくなる

 次回予約のために少額でも予約金を支払うと、お客様の中に、「すでに次の旅行へ向けてお金を払っている」という意識が生まれます。

 何も申し込んでいなければ、次の休暇では、ほかのクルーズ会社、海外旅行、温泉旅行など、さまざまな選択肢が比較されます。

 しかし、すでに次回予約の権利を持っていれば、

「せっかく予約金を払ったのだから、次もこの会社にしよう」
「特典を使わなければもったいない」

 と考えやすくなります。

 さらに、特典を利用できる期間が決められている場合は、「期限が切れる前に、次の旅行を決めよう」という理由も生まれます。

 この段階では、クルーズ会社は次の旅行を完全に販売できていない場合もあります。それでも、お客様に最初の予約金を支払ってもらうことで、次の旅行を考える際の最有力候補になることができます。

 船上予約は、将来の旅行代金を少し早く受け取るだけではありません。次の休暇でほかの旅行商品へ流れてしまう前に、お客様との関係をつなぎ留める仕組みなのです。

船内クレジットが、
次回の追加注文を生み出す

 船上予約の特典として、次回の旅行で利用できる船内クレジットが付与されることがあります。船内クレジットは現金として受け取るものではありません。

 次回の乗船中に、

 ・有料レストラン
 ・飲み物
 ・スパ
 ・寄港地ツアー
 ・船内ショップ

 などで使える金額です。

 お客様はクレジットを持っていると、

「せっかくクレジットがあるから、有料レストランを利用してみよう」
「クレジットだけでは足りないけれど、差額を払ってスパを体験しよう」
「普段なら申し込まない寄港地ツアーに参加してみよう」

 と考えやすくなります。

 例えば、100ドル分の船内クレジットを持っていて、利用したいサービスが150ドルなら、お客様は50ドルを追加して利用します。つまり、クルーズ会社が渡した100ドル分のクレジットが、50ドルの新たな支払いを生み出すきっかけになります。

 また、一度有料レストランやスパなどを利用して満足すれば、次回以降はクレジットがなくても利用する可能性があります。船内クレジットは、次回の乗船を決めてもらうための値引きであると同時に、これまで利用していなかった有料サービスを体験してもらうための「お試し資金」でもあるのです。

次の旅行が決まると、
今回の旅行後も関係が続く

 旅行商品は、旅行が終わると、お客様との関係もいったん途切れやすい商売です。次の予約をしていないお客様に再び利用してもらうには、旅行後にメールや広告を送り、もう一度興味を持ってもらわなければなりません。

 しかし、船上で次回予約の権利を購入してもらえば、下船後も、

「次はどの航路にするか」
「いつ出発するか」
「どの客室を選ぶか」

 といった連絡を続けられます。お客様にとっても、今回の旅行が終わった後に、「次はどこへ行こう」と考える楽しみが残ります。

 そして次回の旅行が具体的になると、寄港地ツアー、飲食プラン、客室のグレードアップなど、新しい商品を提案する機会も生まれます。

 その結果、

 今回のクルーズを楽しむ
 ↓
 船内で次回予約の権利を購入する
 ↓
 帰宅後に次の航路や日程を決める
 ↓
 客室や船内サービスを追加する
 ↓
 次回のクルーズへ乗船する
 ↓
 船内でさらに次の旅行を予約する

 という循環を作ることができます。

 クルーズ会社は、一回の旅行をその場で終わらせず、次の旅行の販売開始日に変えているのです。

他のお店でも使える
「満足している間に次を売る」設計

 ・リゾートホテル
 チェックアウト時に、日程を後から決められる次回宿泊券を販売する。滞在への満足感が残っているうちに再訪を決めてもらい、次回使える館内利用券によって、レストランやスパの追加利用にもつなげる。

 ・体験教室
 料理、陶芸、アクセサリー作りなどの体験が終わった直後に、次回講座の予約特典を案内する。作品が完成した達成感や「もっと上達したい」という気持ちが強いときに、次の講座や上位コースを提案する。

 ・観光ツアー
 ツアーの帰りに、季節や目的地の異なる次回ツアーを案内し、少額の予約金で参加枠を確保できるようにする。今回の体験が記憶に残っているうちに、「次は家族を連れてきたい」「今度は違う季節に訪れたい」という気持ちを次回予約へ変える。

まとめ

 クルーズ会社が、旅行が終わる前に次の旅行を売るのは、単に早く予約を確保するためではありません。

 ・お客様が船旅の魅力を最も強く感じている間に提案することで、「また乗りたい」という気持ちを次回予約に変え
 ・具体的な日程や航路を決めなくても次回予約の権利だけを確保できるようにすることで、決断の負担を小さくし
 ・少額でも予約金を支払ってもらうことで、「せっかく申し込んだのだから利用したい」という継続理由を作り
 ・次回の船内で使えるクレジットを付けることで、有料レストラン、スパ、寄港地ツアーなどの追加利用を促し
 ・旅行後も次の航路や日程を決めるための接点を持ち続けることで、今回の旅行を次の旅行の販売開始日に変え

 という、お客様の満足感が冷める前に次回の利用を決めてもらい、将来の乗船代と船内売上を同時に作る販促の仕掛けなのです。

岡本達彦(おかもと・たつひこ)
販促コンサルタント
現場目線ですぐ使えるマーケティングを伝える第一人者。
広告制作会社時代に100億円を超える販促展開を見て培った成功体験をベースに、むずかしいマーケティングや心理学を使わず、
アンケートやマンダラ等を活用して、誰でも売れる広告を作れる手法を体系化する。
業界を問わず即効性が高く、お金をかけずに売上を上げられることから、全国の商工会議所・経済団体などからセミナー依頼が殺到する。
初の著書『「A4」1枚アンケートで利益を5倍にする方法』(ダイヤモンド社)は、Amazon上陸15年、「売れたビジネス書」50冊にランクインする。
他の著書に、『お客様に聞くだけで「売れない」が「売れる」に変わるたった1つの質問』
『あらゆる販促を成功させる「A4」1枚アンケート実践バイブル』
『「A4」1枚チラシで今すぐ売上をあげるすごい方法』『「マンダラ広告作成法」で売れるコピー・広告が1時間でつくれる!』(以上、ダイヤモンド社)等がある。