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なぜ自動車販売店は、将来の点検やオイル交換を車の購入時に先払いさせるのか?Photo: Adobe Stock

整備料金を先に受け取ると、
数年先まで同じ店へ来てもらえる理由

 自動車を購入するとき、販売店から、「定期点検とオイル交換がセットになったメンテナンスパックに入りませんか?」と案内されることがあります。

 メンテナンスパックには、購入後の定期点検、エンジンオイル交換、オイルフィルター交換などが含まれています。

 プランによっては、初回車検や2回目の車検まで、数年間のメンテナンスがまとめられていることもあります。お客様は、まだ受けていない将来の点検やオイル交換の料金を、車を購入するときにまとめて支払います。

「点検が必要になったときに、その都度支払えばよいのでは?」

 そう思う人もいるでしょう。実は、自動車販売店がメンテナンス料金を先払いしてもらうのは、将来の売上を早く受け取るためだけではありません。

 点検やオイル交換の料金を先に受け取っておけば、お客様には、「すでに支払っているのだから、同じ販売店で点検を受けよう」という理由が生まれます。

 その結果、半年後、1年後、車検時と、数年先まで定期的に来店してもらえるようになります。

 つまり、メンテナンスパックは、将来の整備をまとめて販売する商品であると同時に、車を販売した後もお客様との関係を切らさないための販促の仕掛けなのです。

車を購入した店へ、
その後も通い続けるとは限らない

 自動車を購入した直後は、お客様と販売店の関係が最も強い時期です。

 しかし、時間がたつと、その関係は少しずつ弱くなります。オイル交換であれば、近くの整備工場やカー用品店、ガソリンスタンドなどでも受けられます。車検の時期になれば、複数の店から案内が届き、価格を比較する人もいます。

 販売店から点検の案内が届いても、

「今回は近くの店で済ませよう」
「もっと安い店を探してみよう」
「特に問題がないから、まだ点検しなくてもよいだろう」

 と考えることがあります。

 一度ほかの店で整備を受けると、次回もその店を利用する可能性が高くなります。すると、車を販売した店は、オイル交換や車検などの整備売上を失うだけではありません。

 お客様の車の状態や使用状況を確認する機会も失います。そのまま数年間接点がなくなれば、次の車を買い替えるときにも、ほかの販売店を選ばれる可能性があります。

 自動車販売店にとって重要なのは、車を一台販売することだけではありません。購入後も定期的に来店してもらい、次の買い替えまで関係を続けることです。そのために、車を購入した時点で、その後の点検やオイル交換まで一緒に契約してもらうのです。

「すでに払ってある」が、
同じ店へ行く理由になる

 メンテナンスパックに加入したお客様は、将来の点検やオイル交換の料金をすでに支払っています。点検の時期が来たとき、ほかの店を利用することもできます。

 しかし、別の店へ行けば、そこで改めて点検料金やオイル交換代を支払わなければなりません。

 すると、

「もう代金を払ってあるのだから、購入した店で受けよう」
「使わなければ、先に支払った料金が無駄になる」

 と考えます。

 販売店から、「点検の時期が近づきました」という連絡を受けたときも、まだ料金を支払っていないお客様であれば、「今回は受けなくてもよい」と断るかもしれません。

 しかし、すでに料金を支払っていれば、「せっかく含まれているのだから、予約しよう」と考えやすくなります。
点検の必要性だけで来店を促すのではなく、「支払い済みのサービスを使わなければもったいない」という気持ちが来店理由になるのです。

 また、一度メンテナンスパックに加入すると、点検のたびに店を探し、料金を調べ、比較する必要がなくなります。

 お客様にとっても、「点検時期になったら、いつもの販売店へ持っていけばよい」という分かりやすい行動が決まります。販売店は、将来の整備料金だけでなく、「次回どこへ行くか」というお客様の選択まで、車の購入時に確保しているのです。

車の購入時なら、
数年分の整備料金を選びやすい

 メンテナンスパックを案内するタイミングも重要です。自動車を購入するとき、お客様は車両本体、付属品、保険、税金などを含めた大きな金額について検討しています。

 そのときに、「今後数年間の点検とオイル交換を、まとめて付けられます」と案内されると、メンテナンスパックの料金は、車の購入総額に対する追加分として見えます。

 例えば、車を購入した後、別の日に10万円のメンテナンス契約だけを提案されれば、「点検のために一度に10万円も払うのか」と感じるかもしれません。

 しかし、車両本体や付属品などを含めた数百万円の購入を検討しているときに、「数年間の点検も一緒に付けておこう」と案内されると、追加料金が相対的に小さく見えます。

 さらに、点検やオイル交換を一回ずつ申し込む場合の合計額と、パック料金を比較できるようにすれば、「どうせ必要になるなら、今まとめて申し込んだほうがよい」と考えやすくなります。

 車は、購入した後も点検や消耗品交換が必要になる商品です。将来支払う可能性の高い費用を、購入意欲が最も高い車の契約時にまとめて提案することで、数年分の整備を一度に販売しているのです。

定期点検が、
追加整備を提案する機会になる

 メンテナンスパックに加入していても、車にかかるすべての費用が含まれているとは限りません。プランによって内容は異なりますが、点検や指定されたオイル交換などが含まれていても、車の状態に応じて必要になる追加整備や部品交換、車検時の法定費用などは別料金になることがあります。

 定期点検で車を確認すると、

「タイヤの溝が少なくなっている」
「バッテリーが弱くなっている」
「ブレーキ部品の交換時期が近い」

 といった状態が分かることがあります。

 お客様が故障を感じていないときに電話や広告だけで部品交換を勧めても、「まだ使えるから大丈夫だろう」と先送りされるかもしれません。

 しかし、点検時に実際の状態や測定結果を示しながら説明すれば、安全に関わる自分の問題として考えやすくなります。

 つまり、メンテナンスパックによる定期来店は、すでに販売した点検を実施する機会であると同時に、その時点で必要になった整備や部品を提案する機会でもあります。

 その結果、

 メンテナンスパックへ加入する
 ↓
 決められた時期に点検へ来店する
 ↓
 車の状態を確認する
 ↓
 必要な追加整備や部品交換を提案する
 ↓
 次の点検時期を案内する

 という流れが生まれます。

 先に点検料金を受け取ることで、将来の追加売上が生まれる接点まで作っているのです。

定期的に会うことで、
次の買い替え時期も分かる

 自動車は、数年に一度買い替える商品です。そのため、販売店が次の車を販売するには、お客様が買い替えを考え始める時期を知る必要があります。

 しかし、車を販売した後に連絡が途絶えてしまうと、

「走行距離がどのくらい増えているのか」
「家族構成や車の使い方が変わったか」
「修理費がかかり始めているか」
「次の車検を受けるか、買い替えるか迷っているか」

 といったことが分かりません。

 一方、半年や一年ごとに点検へ来店してもらえれば、担当者はお客様や車の変化を確認できます。

 点検中の会話から、

「子どもが生まれたので、広い車が必要になった」
「仕事を辞めたので、あまり車に乗らなくなった」
「次の車検で費用がかかるなら、買い替えも考えたい」

 といった情報が分かることもあります。

 そして、車検や高額な修理が近づいたときに、「今回修理して乗り続ける方法と、今の車を下取りに出して買い替える方法を比較してみませんか?」と提案できます。定期点検で整備履歴が残っていれば、車の状態を踏まえた下取りや買い替えの話もしやすくなります。

 メンテナンスパックは、点検やオイル交換を販売するだけの商品ではありません。数年後の買い替え時期まで、お客様との接点を途切れさせない仕組みでもあるのです。

先払いによって、
将来の売上と来店予定を確保できる

 点検やオイル交換を、その都度販売する方法では、お客様が本当に来店するまで売上は確定しません。ほかの店を選ばれたり、点検自体を先延ばしにされたりする可能性もあります。

 一方、メンテナンスパックなら、将来実施する予定のサービスを車の購入時にまとめて契約してもらえます。販売店は、車の販売と同時に数年分の整備売上を確保できます。

 さらに、加入しているお客様の人数や点検時期が分かれば、

「半年後に何台程度の点検が予定されているか」
「どの時期に車検が集中するか」
「どのくらいのオイルや部品が必要になるか」

 といった将来の業務も予測しやすくなります。

 お客様にとっても、点検のたびに大きな出費が発生するのではなく、車の購入時に将来の費用をまとめて準備できます。

 その結果、

 車を購入する
 ↓
 メンテナンス料金を先払いする
 ↓
 定期的に同じ販売店へ来店する
 ↓
 必要な追加整備を受ける
 ↓
 車検や買い替えを相談する
 ↓
 次の車を購入する

 という長期的な循環を作ることができます。

 自動車販売店は、車を売った日に取引を終わらせるのではありません。将来の点検を先に販売することで、次の車を購入する日までの関係を作っているのです。

他のお店でも使える
「将来のメンテナンスを先に売る」設計

 ・自転車店
 自転車の購入時に、定期点検、ブレーキ調整、チェーンの清掃や注油などをまとめたメンテナンスパックを販売する。定期的な来店によって、タイヤやブレーキ部品の交換を提案でき、次の自転車購入まで関係を続けられる。

 ・空調設備会社
 エアコンや業務用空調の設置時に、数年分の定期点検と清掃をセットで契約してもらう。故障してから呼ばれるのではなく、決められた時期に訪問することで、部品交換や設備更新の必要性を早めに伝えられる。

 ・住宅設備店
 給湯器や浄水器の販売時に、定期点検、清掃、消耗部品交換などをまとめた保守プランを販売する。将来の点検先を自店に決めてもらい、故障や交換時期が近づいたときに買い替えを提案できる。

まとめ

 自動車販売店が、将来の点検やオイル交換を車の購入時に先払いしてもらうのは、整備料金を早く受け取るためだけではありません。

 ・車を購入した店以外でも点検やオイル交換を受けられる中で、将来の整備先を購入時に決めてもらい
 ・「すでに料金を払ってある」という状態を作ることで、ほかの店を選ばず、同じ販売店へ来店する理由を作り
 ・数百万円の車を検討しているときに追加料金として案内することで、数年分のメンテナンス料金を相対的に小さく見せ
 ・定期点検によって、タイヤ、バッテリーなど、その時点で必要になった追加整備を提案する機会を作り
 ・半年や一年ごとにお客様と会うことで、車の使い方や家族構成の変化、修理費、次の車検など、買い替えにつながる情報を把握し
 ・将来の整備売上と来店予定を先に確保することで、車の販売から次の買い替えまで関係が続く循環を作る

 という、一度の車両販売を、数年間の整備売上につなげ、さらに次の車の販売につながる可能性も高める販促の仕掛けなのです。

岡本達彦(おかもと・たつひこ)
販促コンサルタント
現場目線ですぐ使えるマーケティングを伝える第一人者。
広告制作会社時代に100億円を超える販促展開を見て培った成功体験をベースに、むずかしいマーケティングや心理学を使わず、
アンケートやマンダラ等を活用して、誰でも売れる広告を作れる手法を体系化する。
業界を問わず即効性が高く、お金をかけずに売上を上げられることから、全国の商工会議所・経済団体などからセミナー依頼が殺到する。
初の著書『「A4」1枚アンケートで利益を5倍にする方法』(ダイヤモンド社)は、Amazon上陸15年、「売れたビジネス書」50冊にランクインする。
他の著書に、『お客様に聞くだけで「売れない」が「売れる」に変わるたった1つの質問』
『あらゆる販促を成功させる「A4」1枚アンケート実践バイブル』
『「A4」1枚チラシで今すぐ売上をあげるすごい方法』『「マンダラ広告作成法」で売れるコピー・広告が1時間でつくれる!』(以上、ダイヤモンド社)等がある。