経済成長率の低迷を理由に「日本はダメだ」と語る議論があふれています。しかし『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』の著者・山口周さんは、安全保障、教育、医療、インフラ、格差、失業――国の役割を項目ごとに比較すれば、「特に米国との比較において、日本が劣っているのは経済成長率だけ」だと指摘します。個人にも、企業にも、そして国にも当てはまる「モノサシ」の話。その背後には「支配」をめぐる深い問題がありました。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)
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経済成長率は、数あるモノサシのひとつでしかない
――経済成長率の低迷を理由に「日本はダメだ」と語る人が多いように思います。この議論を、山口さんはどう見ていますか。
山口周氏(以下、山口):ここ10年ほど、日本の経済成長率が西欧先進国と比較して見劣りしているのは確かです。しかし、私たちの社会のありようを考えたとき、「経済成長率」というモノサシは、数多くある指標のひとつでしかありません。
そもそも国の役割とは何でしょうか?
安全保障、教育の普及、医療へのアクセス、インフラの構築・維持、格差の是正、失業の防止といった役割が浮かびますが、これらの項目で日本と先進西欧諸国を比較すると、実はほとんどの項目で日本はトップクラスにあります。
特に米国との比較で日本が劣っているのは「経済成長率だけ」と言えるでしょう。
経済成長率という指標だけを追う危険性を訴え、経済成長と医療・教育・福祉の充実をバランスさせるべきだと説いた経済学者ジョン・ケネス・ガルブレイスの『ゆたかな社会』が世界的ベストセラーになったのは1958年です。
それから半世紀を経て、多くの先進国で物質的満足度が飽和しているにもかかわらず、彼の主張に逆行するように、GDPという指標が突出して重視されるようになっています。
所得が一定水準を超えるとウェルビーイングが伸びなくなる「イースタリン・パラドクス」を踏まえれば、私たちは社会のさまざまな側面を示す複数の別の指標、言うなれば「ソーシャル・バランス・スコア・カード」を考える時期に来ていると思います。
いつの間にか、支配されていないか?
――組織のパフォーマンス管理に使われる「バランス・スコア・カード」は、「財務視点」「内部プロセス視点」「顧客視点」「学習・成長視点」の4つの要素があると伺いました。単に財務的成果のみに焦点を当てるのではなく、中長期的で多角的な視点で評価するのでした。「ソーシャル・バランス・スコア・カード」は、どのような指標が考えられるのでしょうか。
山口:その指標は、私たち自身が考える「どのような社会が良い社会なのか」という議論に基づいて決められるべきです。これは重要な点です。
なぜなら「他者から与えられたモノサシを受け入れること」は、そのまま「他者の支配を受け入れること」だからです。
「正朔を奉ずる」という慣用句があります。
天子の定めた暦を採用すること、すなわち天子の統治に服従して臣下となることを意味します。かつて古代ローマ帝国は、進出した地域にローマの度量衡を受け入れさせることを「支配の象徴」としていました。
ローマの築いていた水道などのインフラなどを進出した地域にも伸ばせば、度量衡を共通させなければならないというのはもちろんなのですが、ことは技術的な問題にとどまりません。
他者から与えられたモノサシを受け入れてしまえば、長期的には必ず「モノサシを作る側=支配者」と「受け入れる側=被支配者」という関係が、精神の深いところで成立してしまうのです。
人生が不幸になる人の考え方:他者からのモノサシを受け入れてしまう
――個人の人生についても同じことが言えそうですね。
山口:そのとおりです。国についても企業についても個人についても非常に重要なことなのに、なかなか意識化されません。
皆さんの人生の良し悪しを測るための指標は、決して他者から与えられるべきではないんです。
それは、皆さん自身が考える「自分にとってのウェルビーイングとは何か?」という問いから生まれたものでなければならないのです。





