有能さを発揮し、組織を率いて賞賛される――「人生の夏」に輝いた人ほど、危険な依存症にかかっている可能性があると、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』の著者・山口周さんは警告します。1000人以上の高齢者を分析した研究では、「自分が何かの役に立っていると思えない」人の死亡リスクは3倍以上。誰もがいつか迎える「第一線を退く」という転機を、どう乗り越えればいいのでしょうか。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)

老後、不幸になる人の共通点・ワースト1Photo: Adobe Stock

支配型リーダーシップは「持続可能ではない」

――現場の第一線に立ち、強い統率力でチームを引っ張っていくようなリーダーシップは、年齢を重ねても同じように機能し続けるものなのでしょうか。

山口周氏(以下、山口):結論から言うと、機能し続けることはありません。

ただし、誤解のないように言っておくと、支配型リーダーシップ自体が悪いわけではないんです。支配型リーダーシップに対して、他者に奉仕し、支援することを通じて発揮するリーダーシップを「サーバントリーダーシップ」といいますが、提唱者ロバート・グリーンリーフも、支配型リーダーシップを全面的に否定しているわけではありません。現場の第一線で、プレイヤーとしても一級のスキルを持つリーダーが、緊急性の高いタフなタスクにチームで関わる場合などでは有効です。

問題は、それが「長期的に持続可能ではない」ことです。

支配型リーダーシップは、「現場の第一線で働いている」というキャリアのごく一時期においてのみ有効なものでしかありません。30代・40代の「人生の夏」から50代・60代の「人生の秋」への移行に伴う組織的・身体的な変化によって、多くの場合、このスタイルは機能不全に陥ります。とくに環境の変化が激しい現代においてはなおさらです。

過去の知識や経験をもとに独善的に指示するばかりで現場の声を傾聴しなければ、組織の士気は停滞し、メンバーは「なにを言ってもムダだ」という無気力状態に陥るでしょう。

支配型リーダーシップとサーバントリーダーシップは「どちらが優れているか」ではなく、「いつシフトするか」というタイミングの問題として捉えるべきなのです。

本当に病みつきになっているのは「ドーパミン」

――高い業績を上げ、評価されてきた人ほど、支配型リーダーシップからの移行が難しそうですね。

山口:そうなんです。すべての人はいずれ必ず第一線から退くときが来ますが、活躍してきた人ほどこの問題に悩まされます。ひと言でいえば「賞賛依存症」「達成依存症」とでも言うべきものにかかってしまうからです。

ここで少し依存症のメカニズムについて考えてみましょう。

アルコール依存症の人が真に病みつきになっているのは、何でしょうか?

実はアルコールそのものではなく「アルコールが脳にもたらす作用」です。

同じように、賞賛依存症の人が本当に求めているのは「成功者としての自己イメージ」であり、そのイメージが脳に与える作用、つまりドーパミンの分泌なのです。

しかし依存症の常として、賞賛や快楽がもたらす高揚感は数日から数週間で消え、ドーパミンに飢えた脳はさらなる賞賛や快楽を欲して人を駆り立てます。まさに無間地獄です。

「もっと、もっと」と追求し続けるうちに、人生のバランス・スコア・カードは崩れ、本当に大事なものが蔑ろにされ、ウェルビーイングは破壊されていきます。

「役に立っていない」と感じる高齢者の死亡リスクは3倍以上

――この賞賛依存症を抱えたまま「第一線を退く」時期を迎えると、何が起きるのでしょうか。

山口:それは辛いことになります。賞賛されることに病みつきになっている人が、自分の能力が低下し、人々から頼られなくなり、社会から忘れられることを受け入れなければならないのですから。この状況に耐えられず、ひどい虚無感に襲われ、最悪の場合はアルコールや心的失調などの問題を起こすこともあります。こうなってしまえばウェルビーイングも何もあったものではありません。

2007年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校とプリンストン大学の研究班が1000人以上の高齢者を分析したところ、「自分が何かの役に立っていると思えない」と考える高齢者は、「自分が何かの役に立っていると思う」と考える高齢者に比べて、障害を発症するリスクが3倍近く、研究期間中に亡くなるリスクは3倍以上でした。

「自分の存在意義」は、ウェルビーイングにとってそれほど重要な問題なんです。

だからこそ、蓄積した知恵と経験を生かして他者を支援するサーバントリーダーシップが重要です。転機を乗り越えてサーバントリーダーシップに移行すれば、豊かな「後半のステージ」が待っているのです。