「寝ても休んでも疲れが取れない」「なんだかしんどい」「なかなか寝つけない」……。最近、メンタルの不調を訴える人が増えています。ADHD(注意欠如・多動症)で、うつサバイバーのバク@精神科医さんの最新刊『その考え、捨てちゃえば あなたの「思考のくせ」を変える40のヒント』(ダイヤモンド社)は、そうしたメンタル不調から抜け出すための「苦手な人との距離の取り方」や「気持ちをリセットするための方法」などを紹介する一冊。本連載では同書から抜粋・編集して、もっと楽に生きられるようになるためのヒント&解決策をお届けします。
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なぜ、私たちはテイカーを断れないのか?
前回で「テイカーは可哀想な人ではない」と書きました。頭では理解できたとしても、それでも断れないのが現実ですよね。
今回は、なぜ私たちはテイカーを断れないのか、その思考の構造を解剖していきます。
まず前提として、普通の思考のOSを持った人間には、「持ちつ持たれつ」「支え合い」という常識アプリがプリインストールされています。何かをしてもらったら感謝するし、可能な範囲でお返しもする。
困っている人を見たら、手を差し伸べようとする。これは、社会で軋轢(あつれき)が生じないように、相互助力で上手く生きていくための基本ソフトウェアです。
ところが、このアプリはテイカーにはインストールされていません。彼らが搭載しているのは、別のアプリです。
「早い者勝ち」
「タイパ最優先」
「頼れるものには頼り倒す」
しかもこのアプリ、本人の中では「効率的な素晴らしい生き方」として認識されているので罪悪感がほぼ機能していません。だから反省もないし、罪悪感も起動しない。
「いいことをしている(自分にとって)」と本気で思っています。
ここで恐ろしいのは、この非対称性をテイカー自身はよく理解しているということ。
自分が特殊だと自覚しているからこそ、あなたにインストール済みの「良心アプリ」をピンポイントで狙い撃ちができてしまうのです。
「良心ハッキング」するテイカーの
典型的な3つの手口
良心ハッキングの典型的な手口を、いくつか書き出しておきます。
手口①:断った瞬間の「無表情スイッチ」
「今回は他の予定があって……」とあなたが断った瞬間、今までニコニコしていたテイカーの顔から、表情がスッと消えます。まるで夢か幻のように、無表情で「あ、そ。じゃいいよ」と冷たく返される。
まともな思考の人は、この瞬間に脳内でアラートが鳴ります。「あ、嫌われた!?」「冷たいって思われた!?」そして反射的に「あ、やっぱりやるよ!」と撤回してしまう。
これが、テイカー側のわざとらしい感情操作です。あなたの罪悪感センサーを狙って温度差を作っている。一種の心理的なDDoS攻撃(大量のアクセスでシステムをパンクさせるサイバー攻撃/良心への集中砲火)です。
手口②:「あなたしかいない」の連続コンボ
OKを引き出した瞬間、テイカーは表情を一変させます。「本当~!? いや、マジで自分が頼れる人って◯◯しかいないから~!」
「あなたしかいない」という言葉で、あなたの脳に「自分は特別に信頼されている」という誤認識を植え付けてくるのです。これで次回も同じ手口が使えるよう、あなたの記憶を上書きしていくわけです。
わかりやすく例えると、ギリギリの時のホストとエース(最重要顧客)の関係です。今月もうお金ないよ……と女性が言った瞬間、見たことがない冷たい表情になるホスト。あ、捨てられる! と焦った女性が必死に金策を捻り出すと、いつもの甘い笑顔に戻る彼。
―いや、夢を売られているだけ、こちらのほうがまだマシかも。会社や学校でテイカーに巻き上げられても、夢もロマンもありません。あるのは目の前にある二人分の仕事と、一人分の給与だけです。
手口③:「でも可哀想だから」のウイルス感染
一番怖いのはこれです。あなたの心の中に「でも助けてあげないと可哀想」という思想を、テイカーに長期間かけてインストールされ続けている状態。
ここまで来ると、テイカーが消えた後もあなたは、別のテイカーに同じことをやられます。「困っている人を助けないと、自分は冷たい人間なんじゃないか」という呪いが残り続けるから。
ここで、いい人ほど聞きたくない残酷な事実を言います。
あなたがテイカーに尽くせば尽くすほど、テイカーの人間としての地力は下がっていきます。
メールの作文、パワポの資料、電話対応、一般常識―社会人としての基本スキルは、失敗しながら自分で練習しないと身につきません。
それを全部、あなたが肩代わりしてきた結果、テイカーはあなた(もしくは次のギバー)がいないと生活できない状態になっていきます。
つまり、あなたの「優しさ」は、相手から成長の機会を奪っている可能性があるのです。
これを心理学では、イネイブラー(相手の問題行動を支えてしまう人)と呼びます。「可哀想だから助ける」が、実は「相手の人生を腐らせている」。
この構造を知ってしまうと、安易に「可哀想」とは言えなくなるはずです。
ここまで読んで、「じゃあどうやって断ればいいの?」と思ったあなたへ。
次回は、具体的な撃退法を紹介していきます。効果的な言葉、使ってはいけない断り方、そしてテイカーの世界での「悪人になる勇気」について……。
元内科の精神科専門医
中高生時代イジメにあうが親や学校からの理解はなく行く場所の確保を模索するうちにスクールカウンセラーの存在を知り、カウンセラーへの道を志し文系に進学。しかし「カウンセラーで食べていけるのはごく一部」という現実を知り一念発起し医師を目指し理転後、都内某私立大学医学部に入学。奨学金を得ながら勉学とバイトに勤しみ大学を卒業。医師国家試験に合格。当初、内科医を希望したが医師研修中に父親が亡くなった喪失体験も重なり休職に至る。この時医師になることを諦めかけるが先輩の精神科主治医と出会うことで精神科医として「第二の医師人生」をスタート。精神科単科病院にて様々な分野の精神科領域の治療に従事。アルコール依存症などの依存症患者への治療を通じて「人間の欲望」について示唆を得る。現在は双極性障害(躁うつ病)や統合失調症、パーソナリティ障害などの患者を対象とする開業医として診察にあたる。「よりわかりやすい、誤解のない精神科医療」の啓発を目標に、医療従事者、患者、企業対象の講演等を行う。うつ病を経験し、ADHD(注意欠如・多動症)をもつ医師としてX(@DrYumekuiBaku)でも人気急上昇中。Xフォロワー9.2万人。著書に『発達障害、うつサバイバーのバク@精神科医が明かす 生きづらいがラクになる ゆるメンタル練習帳』(ダイヤモンド社)、『依存メンタルを力に変えるレッスン』(大和書房)がある。




