「寝ても休んでも疲れが取れない」「なんだかしんどい」「なかなか寝つけない」……。最近、メンタルの不調を訴える人が増えています。ADHD(注意欠如・多動症)で、うつサバイバーのバク@精神科医さんの最新刊『その考え、捨てちゃえば あなたの「思考のくせ」を変える40のヒント』(ダイヤモンド社)は、そうしたメンタル不調から抜け出すための「苦手な人との距離の取り方」や「気持ちをリセットするための方法」などを紹介する一冊。本連載では同書から抜粋・編集して、もっと楽に生きられるようになるためのヒント&解決策をお届けします。

「みんな楽しそうなのに、なぜ自分だけ…」SNSを見て苦しくなってしまうあなたへPhoto: Adobe Stock

キラキラした日常を発信するその人は、
本当に幸せか?

 夜、寝る前にベッドでスマホをスクロールする。

 友達のストーリーズ、同僚の投稿、フォローしているインフルエンサーの日常。みんな楽しそうに笑って、美味しそうなご飯を食べて、キラキラした場所に出かけていて。それに引き換え、自分は―。

 ここでギュッと胸が苦しくなって、スマホを裏返して置く。

なんで自分は、他の人みたいに楽しそうに毎日過ごせないの……

 SNSが普及してから、こういう感覚を持つ人は一気に増えました。

 外来でも、よくこんな訴えを聞きます。

「みんな、ちゃんと友達と遊んでいるのに」
「インスタを見ていたら、自分が惨(みじ)めになって」

 でも、ちょっと立ち止まって考えてみましょう。

 SNSに上がっているキラキラした風景は、その人のベストショットです。同じご飯を何カットも撮って、一番いい角度を選んで、フィルターをかけて、文章を推敲してから投稿されたもの。

 言ってみれば、そのアプリで一番綺麗に表示される一画面だけを、編集してリリースした完成品です。

 そして、あなたがその画面を見ながら比較しているのは、あなた自身の「裏で走っているバックグラウンドアプリ(あなたが今抱えている悩みや、疲れ、不安などメモリを食っていること)を抱えたままの自分」です。

 両者を比べたら、それは、当然差が出るのではないでしょうか?

 片や公開済みの完成版、片や絶賛デバッグ(バグを修正する)中のベータ版(完成していない)の素の自分です。これを並べて「自分は劣っている」と判定するのは、そもそも比較の条件が対等ではありません。

 しかも、投稿している本人が本当に幸せかどうかなんて、正直よくわからないでしょう

楽しそうに見えても、
本当に楽しいかどうかはわからない

 私は医師会(世間のイメージとは違って、私の所属はほぼ仲良しクラブみたいなところです)の会合で、
「バク先生って、人間関係や日常生活での悩みが何もなさそうだよね~」とよく言われます。

 新参者のくせに軽い口調で発言し、医師会の会長にも気さくに話しかけ、私が生まれた時には、もう医師になっていたような大先輩にも物怖じせずに「新参のバクちゃんでーす!」と話しかけたりしているからでしょう。

 そういう姿しか見ていない人からすれば、私は「ずっと楽しそうな人」です。

 でもこれ、全部演技なんです。

 Xで「今日の外来つらい……」とグチグチつぶやいている、あの弱音を吐いているバクと、医師会でガンガン発言しているバクは同一人物です。

 じゃあ、なぜ演技をするのか?

 それは、顔見知りを作っておかないと、自分の患者さんを他院に紹介する時に困るからです。ただその一点です。

「自分が主治医をしている患者さんが不利益を被らないようにするため」完全に目的ありきの演技で、毎月毎月会議に出席し、飲み会にも参加しています。

 人が苦手で、話すだけでもお腹をくだす私が、です。だから、会合が終わって家に着いたとたん、すぐ倒れ伏しています。

 どれだけ参加しても、いまだに人が多いところは苦手ですし、そもそも私は人が怖いんです。友達は少ないし、増やしたいという気持ちも湧かない。

 と、こんなことを書くと、本でしか私を知らない人は、「え、そうだったの?」と驚かれるかもしれません。

 しかし、これが私の真の姿です。そして多分、あなたのSNSのタイムラインに並んでいる「楽しそうな人」の中にも、同じ構造で動いている人が相当数います。

 上辺だけを見て「幸せそう」「悩みがなさそう」に思える人ほど、実は「必死に皆が望むキャラを毎日演じ続けて、段々しんどくなって受診される」ケースが多いです。

 これは、私が外来で何度も見てきた景色です。

 つまり、「なんで皆、あんなに毎日楽しそうに過ごしてるの?」という問いは、最初から前提が間違っているということです。

 「皆」は、毎日楽しく過ごしてはいません。根っからの陽キャではない限り、楽しそうに見える画面を編集して、投稿したり、周囲に見せたりしているだけなんです。

他人を基準にして自分の目標を決める、
という考えを捨てる

 ここで一番大事で、考え方を切り替えてほしいと思うことは、他人を基準にして「自分もあれくらいやれなきゃ」と自分の最低ラインの目標を決めるという発想を捨てる、ということです。

 他人という基準点は、そもそも解像度が低すぎます。

 あなたから見えるのは、その人が投稿した画面、その人が職場で見せる表情、ほんの一部の情報だけですよね。

 それをもとに「皆みたいになる」を目標にするのは、スクリーンショット1枚だけを頼りにアプリを一から開発しようとするようなもので、絶対うまくいきません。

 自分の目標とする基準点は、他人じゃなくて自分に置いてください。

「本当に自分がラクでいられて、かつ、はみ出し者にならない立ち位置はどこか」を探すのが一番必要な人生設計の基準です。

 わざわざ他人から常に楽しそうに見える必要はないし、みんなの輪の中心にいる必要もない。

 あなたの機嫌を良くして毎日が楽しくなる条件と、あなたが他人を見た時に感じる理想像は、別物なんです。

 もしSNSを開くたびに胸が苦しくなっているなら、それは「他人のベストショット」を浴びすぎて、あなたのOSが誤作動を起こしているサインです。

 通知オフ、アプリ削除、一定時間のロック、なんでもいいです。

 一度フィード(情報配信画面)を閉じて、今この現実に戻るために―自分のスマホを、自分のために動かす時間を、定期的に取り戻しましょう。

 皆が楽しそうにしているタイムラインの中で、あなただけが浮いているわけじゃありません。

 浮いているように感じてしまうのは、あなたが唯一、編集前の自分を見ている人だからです。

バク@精神科医
元内科の精神科専門医
中高生時代イジメにあうが親や学校からの理解はなく行く場所の確保を模索するうちにスクールカウンセラーの存在を知り、カウンセラーへの道を志し文系に進学。しかし「カウンセラーで食べていけるのはごく一部」という現実を知り一念発起し医師を目指し理転後、都内某私立大学医学部に入学。奨学金を得ながら勉学とバイトに勤しみ大学を卒業。医師国家試験に合格。当初、内科医を希望したが医師研修中に父親が亡くなった喪失体験も重なり休職に至る。この時医師になることを諦めかけるが先輩の精神科主治医と出会うことで精神科医として「第二の医師人生」をスタート。精神科単科病院にて様々な分野の精神科領域の治療に従事。アルコール依存症などの依存症患者への治療を通じて「人間の欲望」について示唆を得る。現在は双極性障害(躁うつ病)や統合失調症、パーソナリティ障害などの患者を対象とする開業医として診察にあたる。「よりわかりやすい、誤解のない精神科医療」の啓発を目標に、医療従事者、患者、企業対象の講演等を行う。うつ病を経験し、ADHD(注意欠如・多動症)をもつ医師としてX(@DrYumekuiBaku)でも人気急上昇中。Xフォロワー9.2万人。著書に『発達障害、うつサバイバーのバク@精神科医が明かす 生きづらいがラクになる ゆるメンタル練習帳』(ダイヤモンド社)、『依存メンタルを力に変えるレッスン』(大和書房)がある。