仕事ができる人ほど、何でも自分で抱え込む――そう思っていないだろうか。実は、世界的ブランドのエルメスが成長できた背景には、自社にないものを「外から借りる」という発想があった。大切なのは、足りないものをすべて自前でそろえることではない。人、技術、信用、販路などを組み合わせ、顧客に届く価値をつくることだ。本稿では、書籍『ビジネスメイキング――売上と信頼が積み上がる「仕組みのつくり方」』から一部を抜粋し、エルメスの歩みを例に、仕事を前に進める人の「借りる力」について紹介する。

仕事ができない人ほど「自分だけで何とかする」、エルメスに学ぶ「借りる力」の正体Photo: Adobe Stock

 自分の手元にないものを外から取り込み、価値を現実にする方法を見ていきましょう。この発想を、企業の歩みとして見るとわかりやすい例があります。エルメスです。

 エルメスはもともと、馬具工房として出発しました。馬具づくりで培った革の加工技術は、同社にとって大きな強みでした。しかし、時代が進み、移動手段が馬車から自動車へと変わっていくと、馬具そのものの市場は以前と同じ意味を持ち続けられなくなります。

 このとき、もしエルメスが「自分たちは馬具の会社だ」とだけ考えていたら、できることは限られていたはずです。馬具の品質をさらに高める。既存の顧客に売り続ける。伝統を守る。もちろん、それも大切です。しかし、それだけでは、移動のあり方そのものが変わっていく時代には対応しきれません。

 転機の一つになったのが、ファスナーという外部の技術との出合いでした。エルメスは、自社でファスナーを一から発明したわけではありません。外にある新しい技術を取り込み、自社が長年磨いてきた革の技術と結びつけました。革を扱う技術と、開け閉めを容易にする新しい技術。この二つが組み合わさることで、バッグや革製品に新しい使いやすさと現代性が生まれていきました。

 ここで重要なのは、足りないものを自前で抱え込もうとしなかったことです。自社にない技術があるなら、それを外から取り込めばいい。自社の強みだけでは時代の変化に追いつかないなら、外部の技術や知恵と接続すればいい。

 そう考えたとき、古くからある革の技術は、過去の資産ではなく、新しい価値を生み出す土台になります。エルメスにとって、外部技術との出合いは、弱みの補填ではありませんでした。自社の革の技術を、次の時代の価値へつなぎ直すための入り口だったのです。

 すべてを自分でそろえようとすると、ビジネスは止まります。けれども、必要なものを外から借り、手元にある強みと組み合わせることができれば、やれることは大きく広がります。

 ビジネスメイキングとは、自分の中にあるものを最大化することではありません。外の世界にある人、技術、信用、販路、時間をどう組み合わせ、顧客の状態を変える流れにしていくか。その編集の力こそが、仕事を前に進めるのです。

借りるとは「補填」ではなく、「成立条件を設計する」こと

 多くの人は、「借りる」という言葉を聞くと、「自分に足りないものを他人で補うこと」だと考えます。

 しかし、ビジネスメイキングにおける借りるとは、単なる不足の埋め合わせではありません。「この価値を成立させるには、何が必要か」を見定め、その条件を満たすように外部の機能を接続することです。言い換えれば、成立条件の設計です。ここを理解しないと、「人脈を使う話」や「外注の話」に矮小化されてしまいます。

 価値が顧客に届くためには、信用、技術、販路、時間などさまざまな要件を満たさなければなりません。このとき重要なのは、いま自分にあるものが何かではなく、「何がなければ成立しないか」です。この順番を間違えると、すべてがずれます。

 自分の手元にあるものから考えると、その範囲でしか答えを組み立てられません。本来必要なものではなく、いま使えるものだけで解こうとしてしまいます。しかし、顧客はこちらの手元にあるもので困っているわけではありません。顧客の状態を変えるものを必要としているのです。

 だから、まず見るべきは成立条件です。そのうえで、足りない資源を外部から調達し、適切な位置に配置する。これが借りることの本質です。

 人を借りるのではなく、機能を借りる。信用を借りるのではなく、信用が通る回路を借りる。販路を借りるのではなく、顧客の中に入る経路を借りる。このような見方に立つと、借りることが一気に戦略になります。誰がやっても再現できる仕事になるのです。