AIの進化や大企業のリストラで、「会社にいれば安心」という前提が崩れつつある。では、どんな時代でも必要とされる人は、何が違うのか。リクルートで江副浩正氏、ソフトバンクで孫正義氏のもとで仕事をしてきた北澤孝太郎氏は、その答えを「自分で仕事をつくる力」に見いだす。松下幸之助が少年時代に身につけた、商売の原点とは何だったのか。本稿では、北澤氏の著書『ビジネスメイキング――売上と信頼が積み上がる「仕組みのつくり方」』から、AI時代にも色あせない「自分で仕事をつくる人」の考え方を抜粋して紹介する。

ずば抜けて仕事ができる人は何が違う? 松下幸之助が少年時代に気づいた「商売の本質」Photo: Adobe Stock

 いま、働き方を取り巻く前提が大きく揺らいでいます。

 AIの進展によって、ホワイトカラー業務の一部は急速に代替されつつあり、企業は人員構成の見直しを迫られています。実際に、アマゾンやパナソニックのような大企業でさえ大規模な人員削減に踏み切りました。また、東京商工リサーチによると、2025年度の早期・希望退職募集人数は2万人を超えたといいます。「安定」の前提は確実に変わり始めています。こうした時代の荒波をくぐり抜けて生きていくためには、どんな場所でも、どんな時代でも通用する、より本質的な力を磨く必要があると思います。

 それは何か。私の答えはシンプルです。「ビジネスメイキング」ができるようになることです。

 私は不安を煽りたいわけではありません。むしろ逆です。会社が守ってくれる時代が終わるなら、自分で仕事をつくれる人になればいい。商品が変わり、業界が変わり、働く場所が変わっても、目の前の人が何に困り、何があれば前へ進めるのかを見つけられる人は、どこでも必要とされます。その力を、私はビジネスメイキングと呼んでいます。

 ビジネスメイキングとは、顧客の不安、不満、不便さを見つめ、そこから新しい価値を組み立てていくことです。顧客の状態を起点に、顧客にとっても、ビジネスを提供する側にとってもメリットが生まれるように調整し、持続可能な仕事の仕組みをつくることを指します。

 そもそも「ビジネス(business)」の語源とされる「bisig」という古英語には、「気にかける」という意味があるそうです。

 まさに、人のことを気にかけることで、その人が抱えているニーズを察知し、そのニーズを満たすことこそがビジネスの本質であり、そのための仕組みを組み立てることを「ビジネスメイキング」と呼んでいるのです。

 そう考えれば、ビジネスメイキングが誰にでもできる、とても身近なものであることがご理解いただけるはずです。そして、ビジネスメイキングが上手にできるようになれば、どんな場所でも、どんな時代でも、周りの人々から「役に立つ人材」「必要な人材」として認められるはずですし、その能力を磨き上げることによって、より大きなビジネスを動かすこともできるようになります。

ビジネスは、一人勝ちでは続かない

 具体的なエピソードで考えてみましょう。松下電器産業(現パナソニック)を一代で築き上げた松下幸之助さんの、子ども時代の話です。

 松下さんは、自転車店で丁稚として働いていたとき、修理を待つ客がタバコを切らすことに気がつき、自分の小遣いでタバコをまとめ買いし、すぐに渡せるようにしました。そのおかげで、客は手持ち無沙汰にならず、修理も中断せず、仕事はスムーズに流れるようになりました。お店の評判も上がり、周囲からも評価されました。しかし、この仕組みは長くは続きませんでした。利益が松下さん一人に偏っていたため、他の丁稚たちの不満を生み、結果としてやめざるを得なくなったのです。

 この話が示しているのは、ビジネスメイキングは単にうまくいく仕組みをつくることだけではないということです。関係する人たちの間に損得の偏りがあれば、その仕組みはやがて機能しなくなります。逆に言えば、関係する人すべてにとって意味がある形でなければ、ビジネスは続かないということです。この視点を持つかどうかで、ビジネスの質は決定的に変わります。

江副浩正、孫正義の背中から学んだ「ビジネスメイキング」の極意

 私はこれまで、リクルート、ソフトバンクをはじめとするさまざまな環境で、数多くのビジネスの現場を見てきました。リクルートでは二十年にわたり、通信、採用、大学・専門学校などの教育機関広報の分野で営業の最前線に立ちました。創業者である江副浩正さんのもとで、入社間もない頃から神戸開拓を単独で任される機会も得ました。何もないところに顧客を見つけ、関係をつくり、事業の足場を築いていく経験は、私にとってビジネスを自らつくり出す原点の一つになりました。

 その後、ソフトバンクでは「おとくライン」プロジェクトに参加し、法人営業や音声事業の責任者を務めました。孫正義さんをはじめとする経営者の構想に直接触れ、構想を現場の力と結びつけ、事業として現実化していくことの重みを学びました。

 さらにその後は、事業会社の経営、企業研修、コンサルティング、大学院での営業教育などを通じて、ビジネスをつくる力を現場でどう育てるかに向き合ってきました。そうした現場で痛感したのは、どれほど大きな構想であっても、現場で動き、関係者が納得し、次も続けられる形にならなければ、ビジネスにはならないということです。

 売れる商品をつくる。優れた営業戦略を立てる。強いチームをつくる。もちろん、どれも大切です。しかし、それだけではビジネスは続きません。

 顧客、現場、組織、取引先、社会それぞれにとって意味のある形になっていなければ、どこかで無理が生じ、やがて止まってしまいます。その違いを生むのは、個人の能力だけではありません。関係する人たちの利害が自然に噛み合い、価値がめぐり続ける構造です。そして、その構造をつくるための流れを設計することこそが、私の考えるビジネスメイキングです。

 この本で一貫して見ていくのは、「どうすればビジネスが立ち上がるか」ではありません。「どうすればビジネスが止まらずに続くか」です。そのための考え方と具体的な実践を、これから順を追って見ていきます。
 この本を読み終えたとき、あなたの仕事との向き合い方は変わります。

「売る」という発想から、ビジネスを「つくる」という発想へ。
 自分の持ち物だけで戦う人ではなく、必要な条件を組み立てる人へ。

 この変化が起きたとき、仕事は自分で生み出せるものに変わります。それこそが、ビジネスメイキングなのです。