なぜ私たちは、これほどまでに「人から嫌われること」を恐れるのか。それは単なる性格の問題ではなく、人類が集団で生きのびてきたことと深く関係している。個人として優秀であることと、集団として生き残ることは同じではない。その意外な事実を示した「ニワトリ実験」について『すべて本能のせい』から解説する。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

ニワトリの写真Photo: Adobe Stock

なぜ人間は「嫌われること」を恐れるのか

私たち人間は「周りから嫌われたくない」「うまく馴染めるようにしたい」という悩みを抱きがちです。
これは人間が「集団で生きること」が前提になっているからとも言えます。

進化生物学者のデイヴィッド・スローン・ウィルソンは、その著書『社会はどう進化するのか――進化生物学が拓く新しい世界観』の中で、「個人同士の競争はわがままな性質を生みやすいが、集団同士の競争は思いやりの性質を生む」という趣旨のことを述べています。

人間の行動は、個人としての生き残りと、集団としての生き残りという、二つの異なる力の中で形づくられているのです。

「優秀なニワトリ」だけを集めた実験

この二つの仕組みを表す分かりやすい例が、いわゆる「ニワトリ実験」です。
これはアメリカの遺伝学者ウィリアム・ミュアが行った実験です。
最も卵をたくさん産むニワトリだけを選んで世代を重ねれば、群れ全体の産卵数も増えるはずだ。
そう考えて、たくさん産むニワトリを選び続けました。

優秀なニワトリたちに起きた「予想外のこと」

ところが、結果は予想とは異なりました。
選ばれたニワトリたちの中ではお互いを攻撃する行動が増え、羽をむしり合い、多くの個体が生き残れなくなったのです。
ニワトリ一羽あたりでは高い成績を示していても、集団の中では他のニワトリを傷つけてしまう群れになってしまったのです。
その結果、群れ全体としての産卵数は大きく低下しました。
一方で、それぞれ産卵数の多いニワトリを選ぶのではなく、群れ全体の産卵数が高いグループを選んだ実験では、生存率も産卵数も改善しました。

「自分一人の最適化」が集団のためになるとは限らない

ここから分かるのは、「自分一人の最適化が、必ずしも集団全体の最適化にはならない」という事実です。

集団同士の競争では協力し合える集団の方が生き残るため、人間が「嫌われないこと」を重視する性質は、集団で生きのびるための合理的な適応だったのです。