外資系銀行の若手幹部候補生を集めた研修「トップ30ミーティング」では、どんなことが行われているのか? 日本人でただ一人選ばれた本村哲也氏によれば、昼夜を問わぬ議論や酒席での人間関係構築を通じ、精鋭たちが競い合い、絆を育む「虎の穴」のような場だったという。本村哲也氏の著書『アメリカに訴えられた男 エリート外資系銀行員が嵌められた罠。そして奈落からの復活』(ダイヤモンド社)によれば、プロファイリング研修では強いマインドセットなどで自分を客観視し、禅の瞑想を活用したパフォーマンス向上策も学ぶ。さらに激しい英語のディベートで世界の第一線で戦う自信を深めたという。
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トップエリートたちの虎の穴
人の10倍の成績を上げ続けた本村は、欧州でトップクラスの信用度を誇るラボバンクで日本人として唯一、マネージングディレクターというトップエリート集団に選ばれた。
ラボバンクには「トップ30ミーティング」という、若手エリートが集まって合宿をするマネジメント候補者研修があった。将来の経営を担う幹部候補生合宿だ。そこに精鋭の若手幹部候補生30人が世界中から集められたのだ。
カリキュラムは早朝から夜までみっちり詰まっていた。最初に行われたのはビジネスディスカッション。30人をA・B・C・D・Eと6人1組にグループ分けして、テーマをもとに繰り返し議論が行われる。その後プレゼンテーションへと移る流れだ。問題解決策を必ず提示することが求められ、各グループの発表に対してさらに全員で議論する。発言がなければ有能でないと判断されるため、全員が積極的に発言する。闘いは静かに始まっていた。世界トップレベルのエリートたちだから当然、頭が回る人が多い。一人ひとりが半端ないロジカルシンキングの鬼だ。若くしてさまざまな修羅場を踏んできた世界中の猛者が集まった、まさに虎の穴だった。
闘いの舞台は座学の場だけではない。アフターファイブも壮絶な「戦場」だった。酒を酌み交わすと人間の本性が浮き彫りになる。酒に呑まれないことはもちろん、本性の部分までしっかりとチェックされながら、ライバルをしのがなければならないのだ。
「酒席では人間関係の距離がぐっと縮まるものです。オランダ、ニューヨーク、ロンドンの幹部候補生たちとも、お酒であっという間に打ち解けました。この場でつながったメンバー同士が、何か問題があったときに国を越えて連絡を取り合えるように、人的ネットワークを短時間で育めるかどうかがチェックされていたのです。競争と調和をしっかりと両立できているかが試されていたのだと思います」
カリキュラムの中には「ビジネスサイコロジストからパーソナリティをプロファイルされる」というユニークなものも含まれていた。企業版臨床心理士であるビジネスサイコロジストとマンツーマンで3日間の集中研修が行われたのだ。本村を含むトップ30人のメンバーがそれぞれプロファイリングされた。まずIQテストを受検し、次に論理思考を問うペーパーテストを受検する。その後はサイコロジストによるインタビューが2日間かけて実施された。
「サイコロジストからは生い立ちから現在まで幅広い質問が投げかけられました。そのプロファイリングをもとに『本村哲也について』というレポートが作られ、30人の間で公開されました。『あなたはこういう人間です』ということがIQテストやさまざまなヒアリング結果にもとづいて記載されているわけです。各項目にはイギリスの上場企業役員の平均値から算出した基準値が設けられていて、その基準値よりも高ければ『あなたのメンタルは強い』と評価されます。自分のプロファイルで特徴的だったのは『マインドセットがとても強い』ということでした。自覚していた部分もありましたが、こうして客観的な数値として現れることに改めて感心しました」
本村はトップ30ミーティングを通じて、世界中のエリートたちの気質に触れた。そして自身のポジションを改めて確認することになった。
「ヨーロッパ人やアジア人といった人種やカルチャーによる傾向が明らかにあります。たとえば日本人の中でどれだけ自己主張が強くても、アメリカ人の輪の中では自己主張しない人に位置づけられてしまう。自分のプロファイルを見ると、私の特徴はアジア人的ではないとサイコロジストからも指摘されました。子どものころから日本は自分の居場所ではないのではないかと感じていましたが、ある意味それは正しかったのです」
カリキュラムでは、本村の上司など関係する人のプロファイリングデータも提示された。上司の性格、さらにその上司の性格まで開示され、本村との相性や起こりうるトラブルまで数値化された。その後はミーティングを重ねてパフォーマンスを向上させるトレーニングが行われた。強化すべき点と強みを具体的に指摘してもらう中で、ストレスを溜めずにパフォーマンスを上げる方法についても言及された。そこで勧められたのがZEN(禅)の瞑想だった。まさか海外で外国人に瞑想を勧められるとは思っていなかった。それは強烈に印象に残り、後にマインドフルネスの考え方を取り入れるきっかけとなった。
世界中から集まったえりすぐりのエリートたちは実にパワフルでエネルギッシュだった。実績のある日本人トップエリートでも、まったく配慮されることはなかった。イギリス人に猛烈に速い英語で議論を持ちかけられても、すぐに英語で反論しなければいけない。英語が得意な本村でさえ、さすがについていけないと感じる場面があった。だがそこでひるんでしまうことは許されない。「へこんだら負け」だった。
「日本語で議論している限りは言い負けることは今までなかったですが、英語でのディベートではどうしてもイギリス人に負けてしまいます。どうやったらディベートに勝てるかを考えた末に気がついたのは、英語のときはまず相手の話をよく聞くことから入らざるを得ないということでした。相手の話をよく聞くことで頭を整理する時間が取れて、むしろ有利になるとわかってきたのです。ディベートは後攻の方が有利――日本語環境では気がつけなかった視点でした」
世界中のエリートたちと激しい競争をする環境に身を置いたことで、英語力が格段に上がったことは間違いない。相手の英語がわからないときの対処法、不利な立場での戦い方など、ビジネスで必要なスキルが磨かれていった。何より、英語環境下でも何とかできるという自信が醸成されていったことが大きかった。
「アフターファイブには別の戦いもありました。どれだけ遅くまで飲んでも翌朝きちんと出てこられるかという暗黙の体力気力勝負です。朝3時4時まで飲み続けても、朝7時には起きて8時に集合する。それができない人間はトップ30の資格なしと見なされます。『今日は飲まないで帰る』と言おうものなら、タフではないと判断されて同じチームの仲間にはなれないと見なされてしまう。こんなところで日本人が舐められてはいけないと思って、毎日気合で誰よりも遅くまで飲みに付き合っていました」
ラボバンクでのトップ30では、激しい競争の中でメンバー同士の絆と信頼が生まれていった。この人に頼めば大丈夫、この人の頼みならやるという信頼感が醸成されていったのだ。本村にとってはさまざまなことを考える契機となった。







