成果が出ている。部下からも信頼されている。それでも、リーダーシップが正しく機能しているとは限らない。目標を強く求めるほど現場に無理が生じたり、実績を重ねるほど部下が意見を言いにくくなったりすることもある。優秀な上司ほど気づきにくい「リーダーシップの3つの罠」を『人を動かし、成果を生み出す リーダーシップの科学』から一部抜粋・編集して紹介する。(ダイヤモンド社書籍編集局)
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リーダーシップの3つの罠
リーダーシップを発揮・思考する上で、リーダーが知らぬ間に思考の外側に置いてしまったり、気づきにくかったりすることはある。良かれと思って行った働きかけが、思わぬマイナス面を生むこともある。ここでは、リーダーシップを実践する上で、多くの人が陥りがちな3つの罠について述べておく。
取り上げるのは、①リーダーシップの死角、②リーダーシップスタイルの変容、③プロセスであることの誤解の3つである。
これら思考の外側に出がちなことをあらかじめ理解しておくことは、良きリーダーシップを発揮するための思考の広がりに貢献できるだろう。
リーダーシップの死角
まず、リーダーシップの発揮は、望んだフォロワー(部下など、リーダーの働きかけを受ける人)の行動だけをもたらすものとは限らない。また、良い結果をもたらすか悪い結果をもたらすかのどちらかでもなく、良い点もあれば悪い点もあるということがほとんどである。
例えば、具体的な目標設定をすることは、一時的には部下のモチベーションを上げ、成果を生むが、目標が強調され過ぎると達成そのものに固執するあまり、プロセスを軽視し、時に非倫理的な行動を引き起こすことがある。
であれば、目標を設定するのをやめれば良いというわけではない。それではそもそもの成果がもたらされない可能性がある。また、自身の目標に集中することから、他者への配慮が薄くなり、職場の中での助け合いや協力が生まれにくくなることもある。
具体的な目標を定めてそれに基づいて評価をしていくことで、モチベーションが湧き、業績の向上に寄与する。その反面、そのために無理をし、倫理的に問題があるプロセスでそれを達成しようとするインセンティブを働かせてしまう。またこういったことは職場全体に起こるのではなく、フォロワーごとに異なる行動を引き起こすということもある。
つまり、あるフォロワーは目標に向かって良い業績を残していても、別のフォロワーは問題のあるプロセスで目標を達成しようとしているかもしれない。
しかし、リーダーは得てして良い成果や良い行動にしか目がいかなくなり、職場の雰囲気が悪くなっていたり、非倫理的な行動が生まれやすい状況がつくられたりしていることに気づきにくい。このように、リーダーシップの発揮が、自分が気づきにくい場所で、マイナス面を生み出していないかを、リーダーは考えておく必要がある。
リーダーシップスタイルの変容
2つ目はリーダーシップスタイルが知らぬ間に変容してしまう罠である。リーダーシップは、フォロワーとの間で形成されると同時に、フォロワーに影響を受けることもある。
強いリーダーシップを発揮してきたリーダーが、気づかぬうちにフォロワーから意見しにくい存在になり、暴走してしまうようなことがある。それはひとえにリーダーの問題でもあるが、リーダー自身はそのことに気づきにくいことを理解しておく必要がある。
例えば、リーダーシップの事例とは言い難いが、教員と学生の関係においても同様のことは起こる。自分自身では学生に対する話しかけ方、接し方は何も変えていないつもりでも、大学の場合、教員と学生の年齢差は徐々に広がっていく。そのため、同じような関係になりにくい。年齢差が10歳程度の時と30歳程度の時では学生の受け止め方も異なってくる。必然的に、学生との関係性も変わってくることになる。
10歳差の時は、学生から話しかけてきたり、遠慮なくいろいろと聞いたりしてきたが、30歳差になると同じように振る舞っていても、学生たちは以前に比べて遠慮している。
意にそぐわないことであれば、フォロワーがはっきり言ってくれるといった関係が、自身が実績を出し、フォロワーからも認められるようになると、同じように接していても今度は「あの人に言われたら断れない」というようにフォロワーが受容するようになることもある。強いリーダーや良いリーダーがハマってしまう罠といってもいい。
プロセスであることの誤解
3つ目は、リーダーシップを、自分が指示を出したり、働きかけたりすることだけだと捉えてしまう罠である。
あるビジネスパーソンに、次のようなことを質問されたことがある。自分は課長で自分の下に若い係長がいる。係長の下にはそれぞれ業務を任せた部下がおり、その業務の進捗が悪いため、課長の彼は、係長にどうなっているのかと尋ねた。もちろん、遅いことをなんとかしろということも含んでいる。
その若い係長は課長の彼の質問に対して猛然と「自分はちゃんとやることは伝えているが、彼らが言ってもやらないのが悪く、自分には問題がない」と答えたそうだ。課長の彼は、腑に落ちないため、「それはおかしいですよね」と質問してきたわけである。
もちろん、リーダーシップをとるということは、成果につなげるためにフォロワーを動かすことである。指示を出したのに動かないのであれば、なぜ動かないのか、納期までに一定の成果が出るようにリーダーシップを振るう必要がある。極端に言えば、やることを伝えて動くのであれば係長は単なる伝令役であり、役割として必要がなくなってしまう。
進まない理由は、モチベーションが湧かないのか、業務を進める上での技術的な問題があるのかわからないが、そのことを解決してフォロワーに行動させることがリーダーの役目である。
改めて言えば、リーダーシップとは、リーダーが何か働きかけをすることだけを指すのではなく、リーダーの働きかけがフォロワーの行動を生み、それによって集団の成果をもたらす一連のダイナミズムを駆動させることにある。
そのためには、リーダーシップのスタイルや具体的な行動を学び、実践すれば良いというわけではない。もしかしたら、リーダーとフォロワーの関係性が十分に築けていないためにリーダーの働きかけが駆動しないのかもしれないし、働きかけに反応したフォロワーの行動が成果に結びつきにくいことで、求めるような成果が出ていないのかもしれない。
リーダーは一つの働きかけではなく、さまざまな手を打つ必要があるだろうし、場合によってはフォロワーによって働きかけを変えていく必要がある。
リーダーシップは、自分の働きかけだけで完結するわけではなく、自分とフォロワーの関係によっても異なるし、働きかけも継続的にさまざまな手を打つことで動き出すこともある。また、反対に過去の自分の行動が今の自分の働きかけの効果を減退させることもある。
十分な信頼関係がフォロワーとの間に築けていない時は、遠回りでも、まずフォロワーと良い関係を築くことを先に置くことも大事かもしれない。一度の働きかけではなく、さまざまな働きかけの総体としてリーダーシップは働くものである。
ある特定の働きかけが常に同じようにフォロワーの反応を生み出すとは限らないことにリーダーは注意しておく必要がある。
自分の働きかけが何をもたらしているのか、フォロワーとの関係がどう変わっているのか、そして行動が成果につながっているのか。こうした点を問い直し続けることが、3つの罠を避け、より良いリーダーシップを発揮するために大切なのである。






