よいリーダーを目指すあなたに、足りないものは何か――。それは、センスや経験ではなく、経営学の知識に裏打ちされた「考え方」かもしれない。書籍『リーダーシップの科学』は、最新のリーダーシップ論の知見まで網羅した1冊だ。ビジネスの世界で生きている以上、結果にこだわらないリーダーは考えられない。だが、結果を追い求めすぎるあまり、かえって副作用を生むこともある。本記事では、そのエッセンスを一部抜粋・編集して紹介する。
Photo: Adobe Stock
リーダーの振る舞いは「毒」にもなる
リーダーシップ論では、あるリーダーシップの振る舞いが、フォロワー(部下)の好意的な反応や成果につながることが多く語られる。
しかしながら、特定のリーダーの振る舞いが特定のフォロワーの行動だけを引き出すわけではない。薬による副作用のように、良い作用ばかりではなく、悪い副作用をもたらすこともある。また、毒も薬となる状況もある。
そのような意図しないフォロワーの行動や成果については(意図していないがゆえに)リーダーは気づきにくい。
仕事に対して前向きにがんばっていると思っていた部下が、突然会社に来なくなり、辞めてしまったということも決してまれな事例ではない。気づいた時には、大きな問題となっていることもある。
つまり、一つの行動がポジティブなフォロワーの反応に結びついているが故に、同時に生じるネガティブな反応に気づかないのである。
結果にこだわることのマイナス面
ビジネスの世界で生きている以上、結果にこだわらないリーダーというのは考えられないが、その意識が強くなり過ぎることは、フォロワーの非倫理的な行動につながると言われている。
ではなぜ、最終結果への意識が誠実な態度を失わせることになるのか。そこには5つの誤謬(一面的思考、貨幣価値の重視、短期的な思考、視野狭窄、ゲーム的思考)があるという。
一面的思考
まず、最終結果への意識が強くなることで、本来複数の価値観が存在する状況で、一面的な思考になりがちなことが挙げられる。例えば、大学では近年、論文数が重要視される。もう少し言えば、著名な学術雑誌に掲載される論文数が、その研究者の評価の重要な指標となっている。つまり、良い雑誌により多く論文が掲載されることが、研究者の意識する最終結果となりつつある。
また、大学で言えば、さまざまな批判はあるものの世界の大学ランキングも常に意識させられるようになっている。結果、大学や研究者は論文数や大学ランキングといった指標や数字といった最終結果への意識が強くなる。
教育はもとより、行政や企業組織へのアドバイス、社会的な貢献、文化的な価値の創出、新たな技術の創出といったことも大学や研究者の役割である。またそれらは数字などで代表されるような「最終結果」として示しにくいことも少なくない。
ビジネスの世界でも成果のあり方というのは、単純に売上げだけで測るものではなく、多様な考え方ができるはずである。しかしながら、具体的な数や金額といった最終結果への意識がなされることによって、それら複数の価値観は優先順位をつけられ一面的になってしまう。
貨幣価値の重視
貨幣価値を重視しがちなことが挙げられる。一つ目にあるように、一面的な思考になりがちだが、さらにそこで選ばれるのは利益などの貨幣価値になることが多い。これは企業経営などでは当然のことだが、貨幣価値を重視してしまった結果、非倫理的な行動に結びついてしまった事例は少なくない。
短期的な思考、視野狭窄
また最終結果が強く意識されると、思考がどうしても短期的で視野狭窄になりがちである。そのため幅広く、長期的な視点での成果を考えず、どうしても手っ取り早く成果を上げる方法を模索する傾向が強くなる。
例えば、与えられた成果を達成するためには、周囲と協力して進めるほうが良い場合でも、最終結果への意識が強くなることで、自分のできる範囲でさっと進めてしまう。その中で仕事に対する誠実性を見失いがちになる。
ゲーム的思考
最後に、最終結果への意識が強くなることで、ゲーム的思考に陥ることも指摘されている。ここでいうゲーム的思考とは、仕事が抽象的で現実性を帯びなくなってしまうこと、勝敗が関心事になること、そして身の回りの人たちを潜在的なライバルと捉えるようになってしまうことを指す。特に仕事が抽象的で現実性を帯びなくなることは、CEOなど現場ではなく会議室の中で主に仕事をするケースで起こりうる。
数字が一人歩きするとよく言われるが、現実性がないままに数字だけで議論してしまうが故に、問題が起きてしまうことは少なくない。最終結果への意識が強いことは、このような心理をもたらしてしまうのである。



