毎日必死に働いているのに、仕事は一向に減らない。頑張っているのに、なぜか成果につながらない――。そんな悩みを抱える人にこそ知ってほしいのが、世界一流たちの「口癖」だ。本連載の著者は、外資系IT企業の米国本社でシニア・プロダクト・マネージャーとして働く福原たまねぎさん。福原さんの著書『その仕事、スケールするの?』の発売に際して、本連載では、そんな世界一流の口癖を毎回1つずつ紹介していく。
Photo: Adobe Stock
一日に何度も聞こえてくる言葉「Scale」
シアトルのオフィスで働きはじめて、まず耳に残った言葉がある。
「スケール(scale)」だ。
朝の会議でも、お昼過ぎのプレゼンでも、はたまた廊下の立ち話でも、この言葉が一日に何度も飛び交ってくる。“Is this scalable?”(その仕事、スケールするの?)、“That doesn't scale.”(それじゃスケールしないよ)。日本で働いていたころには、ほとんど耳にしたことのない言葉だった。
なぜ世界一流たちは、こんなにも「スケール」と口にするのか。連載の第1回はこの言葉から始めたい。あとから振り返ってみると、彼らの強さの正体にいちばん近い言葉がこれだと思うからだ。
スケールとは一つの努力が、自動的に何倍もの成果へと広がっていくことを指す。一度やった仕事が、自分の手を離れたあとも勝手に成果を生みつづける。手間は1回分なのに、リターンは10倍にも100倍にもなっていく。そんなイメージだ。
世界のトップが執着する言葉
まず前提として、アメリカのテック業界で「スケール」という言葉は驚くほど浸透している。
UberやX(旧Twitter)に超初期から投資し、シリコンバレーで「最も成功したエンジェル投資家」と呼ばれるナヴァル・ラヴィカントは「お金持ちになるには、社会が求めているけれど、まだ手に入れる方法がわからないものを提供しなさい。それも、スケールした規模で」と言い切っている。
OpenAIのサム・アルトマンも、成功について語るエッセイの中で「時間は線形にしかスケールしない」と書いている。どれだけ優秀な人でも1日は24時間しかないのだから、時間を切り売りする働き方から抜け出せ、という警告だ。
ChatGPTの賢さを支える法則は「Scaling Law(スケーリング・ロー)」と呼ばれるし、GoogleやMicrosoftのような巨大テック企業は「Hyper Scaler(ハイパー・スケーラー)」と呼ばれる。
世界を変えるトップの人たちも企業も、みんな「どうやってスケールさせるか」に異常なまでの執着を持っているのだ。
「スケールする」は最上級の褒め言葉
では、現場ではどんなニュアンスで使われているのか。ポイントは、単なる「規模を大きくする」という意味ではないことだ。
テック業界でスケールとは、使う人がどれだけ増えても、手間はほとんど増えないことを指す。10人に届けるのも1万人に届けるのも、かかる手間はほぼ同じ。そういう設計ができているとき、彼らは満足げに“This scales.”(これはスケールするね)と言う。
これ、実は最上級の褒め言葉だ。逆に“It doesn't scale.”(それ、スケールしないよ)は、設計レビューでの定番のダメ出しになる。
さらに面白いのは、この言葉が仕事の設計だけでなく、働き方そのものにも向けられることだ。たとえば“You can't scale yourself.”(自分の体は増やせないよ)という言い回しがある。あなたが頑張り続ける前提の仕事はやめて、仕組みに任せなさい、という意味だ。10やって10取るのではなく、1やって100取れる形を先に設計する。そんな頭の使い方が、この短い口癖に詰まっている。



