2025年のnote創作大賞で「“仕事のできるエンジニアしかいらない”という怖い世界」が入選した、シアトルの巨大IT企業に勤める福原たまねぎ氏。11月18日に発売予定の新刊『その仕事、スケールするの?』から、米国企業でかけられた衝撃の一言を紹介します。

SeattlePhoto: Adobe Stock

「仕事はできない人はクビになる」という恐ろしい世界

シアトルのビックテックに来て、はじめて参加した大規模なミーティングでのこと。

本社の大きな会議室には、世界中のメンバーがずらりと並ぶ。

「仕事はできない人はクビになる」という恐ろしい世界で10年以上活躍してきた凄腕のエンジニア。外資系コンサルで鍛え上げられたプロダクト・マネージャー。

「さあ、会議を始めよう!」開発のトップ、サトイモさんの声で幕が開く。

サトイモさん……。

いきなり「サトイモさん」と言われてびっくりしたかもしれないが、安心してほしい。彼は人間だ。

本書に登場する同僚たちは、マイケルやスティーブといったカタカナ名ばかり。

これだと、だれがだれだかわかりづらくなってしまうので、この本ではあえて、彼らを親しみやすい「野菜の名前」で呼ぶことにする。

サトイモさんはいつもぴちぴちのTシャツかスポーツウェアを着た大柄な男性。その体型からは「さっきまでジムにいた」という空気が漂っている。豪快な笑い声と大きなジェスチャーがトレードマークで、会議室に入ってきた瞬間から場が引き締まる人だ。

いよいよ、会議が始まった。ぼくは深呼吸をして、入念に準備した内容を話し始めた。営業チームのために新しい機能をつくるというプロジェクトだ。「内容は悪くないだろう」と話し終えた、その瞬間だった。トップエンジニアのゴーヤさんが口を開いた。

“Is this scalable?”(その仕事、スケールするの?)

一瞬、頭が真っ白になった。

「スケール? 何それ?」

顔面蒼白のぼくを見て、つるりんとしたスキンヘッドのゴーヤさんが、すかさず続ける。

「せっかくやるなら営業部のためだけじゃもったいない。他部署でも使える機能をつくるべきじゃないかな?」

しびれた。

それから、「この仕事はだれにどこまで広がるか」という議論が延々と続いた。

ぼくは発言することもできずに、その熱気にただ圧倒されていた。

スケール思考とは?

スケール思考とは、同じ努力で何十倍、何百倍もの成果を出す考え方のこと。

これまでのぼくのように、愚直に「10の力を投じて、10の成果を得る」という働き方は、シアトルでは「たいした仕事をしていない」のと同じだと見なされてしまう。

彼らが目指しているのは、「10の努力で10の成果を出す」のではなく、「1の努力で100の成果を出す」ことだ。

ママチャリは、漕ぐのをやめれば動きは止まる。車は、一度つくればアクセルを踏むだけで「速く」走る。自分が動きつづけないと止まる仕事か、自分の手を離れても動きつづける仕組みか。

一流が全力を注いでいるのは、後者だけだ。