株価チャートには、投資家たちの「買い」と「売り」の勢いが表れます。2000億円超を運用した元ファンドマネジャーで、楽天証券の窪田真之さんは、その動きをどう読み取っているのでしょうか。『株トレ――世界一楽しい「一問一答」株の教科書』の著者でもある窪田さんが、実戦で磨いたチャート術を「孫子の兵法」になぞらえて解説します。

Photo: Adobe Stock
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実戦で使えるチャートの読み方を学ぼう

「孫子の兵法に学ぶ株式投資術」第6回をお届けします。この連載では、毎回チャートクイズを1つ出します。それを解くのに役立つのが、「孫子の兵法」の知恵です。

 戦争と株式投資、まったく異なるように見えて、実は共通の要素がたくさんあります。そこをしっかり学べばチャートの読みがさらに上達します。私の連載を通じて、実戦に生きるチャート術をしっかり学んでください。

チャートのクイズに挑戦!

 A社とB社、買うならどっち?

A社とB社のチャート出所:筆者作成

 A社は法人向けにAIソリューションを提供する企業です。B社は宇宙関連の有力企業です。ともに将来的に高成長を期待していますが、まだ十分な利益が出ていません。本当に高成長が実現するか、まだ確信できません。

 両社とも、何らかの材料か思惑があるようです。どちらも過去3か月に2度、1,000円超えをトライしています。ところが、2度ともすぐ売られて急反落しています。今、3度目の上値トライをしているところです。

 株価チャートを見た上で、すぐに投資して良いと判断する方を選んでください。

孫子の視点でチャートを眺める

 株価チャートは買い手と売り手が戦う場だと思ってください。あなたは、買い手の軍を率いて戦況を見つめています。勝てると思うところで参戦してください。

 そこで参考にしていただきたいのが、以下の教えです。

「兵の形は実を避けて虚を撃つ
」(出所:「孫子の兵法」虚実編より作成)
出所:「孫子の兵法」虚実編より作成
勝兵はまず勝ちてしかる後に戦いを求め、敗兵はまず戦いてしかる後に勝ちを求む。(出所:「孫子の兵法」軍形編より作成)
出所:「孫子の兵法」軍形編より作成

「守備が万全な所は攻めず、手薄な所を攻める」

「勝つ態勢が整ってから戦う者は勝つ。戦ってから勝つ方法を模索する者は敗ける」

 フランスの英雄ナポレオンは「虚」をつく戦略で北イタリアを攻略しました。守備の充実した国境線を避け、スイス山岳地帯を経由して北イタリアに攻め込みました。大軍を率いてアルプスを越えるのは不可能と思われていましたが強行して成功しました。後世「わが辞書に不可能という文字はない」という言葉を生んだ山越えです。見事「実を避けて虚を撃つ」戦略を成功させました。

 第二次世界大戦初期、ドイツはフランス国境の強力な防衛線「マジノ線」を避け、ベルギー南東部の山岳地帯を経てフランスへ侵攻しました。これも、虚を撃つ戦略でした。

正解は……

 買うなら、A社。

 A社は、十分な日柄調整をした後、売買高の大幅増加をともなって上値トライしているので、買ってみて面白いところです。

A社のチャート出所:筆者作成

足元でA社の売買高は急増

 A社は970円~1,000円が上値抵抗線となっています。

 3か月前、1,000円まで株価が急騰した時に売買高が急増していますが、株価はすぐ反落しました。ここで買った人は「しまった」と後悔しています。その後、970円まで株価が急騰した時も売買高が増えましたが、すぐ反落しました。ここで買った人も、「しまった」と思っています。

 そのため、970円~1,000円は、戻り売りが出やすい「上値抵抗線」(上値のしこり)となっています。日柄調整も済んで、株価は3度目の上値トライをしているところですが、今まさに戻り売りが出ていると思います。

 A社の株価は、戻り売りをこなして上放れすると思います。

 なぜならば、3回目の上値トライで、売買高がこれまでよりもはるかに大きくなっているからです。何か追加の好材料が出て、買いが増えたと思われます。ここまで大きく売買高が増加していれば、戻り売りをこなして、株価は上放れできると思います。

 これを、買い方と売り方の戦争と見てください。株価1,000円の所に、売り方の頑強な砦(とりで)があります。買い方は、過去3か月で二回、砦を攻撃しましたが、いずれも売り方に圧倒されて敗退しています。

 ただし、3回目の攻撃はこれまでと違います。これまでよりはるかに多い軍勢を連れて攻め込み、砦の守備隊を蹴散らしたところです。ここは、買い方で参戦して面白いところです。

 既に勝つ態勢ができあがっているところでの参戦なので、勝つ確率は高いと思います。

B社は勝算のない上昇

 ここでB社をもう一度ご覧ください。

 買い手による3度目の攻撃中ですが、売買高は少ないままです。これでは、戻り売りをこなしていくのは難しそうです。B社を買っても勝てると思えません。

 勝算なきまま参戦して勝つことを祈るようでは、投資は成功しません。

勝算があるときだけ参戦する

「天下分け目の戦い」と言われた関ケ原の戦いは、不思議な展開でした。開戦前の布陣だけ見たら、東軍(徳川方)に勝ち目はありません。関ケ原中央に陣取る東軍を囲むように周囲の山々に西軍が布陣していたからです。西軍が一斉に攻めかかれば、東軍は撃破されたでしょう。

 ところが、史実は異なります。徳川家康は、戦う前に、外交戦略によって「勝ち」をほぼ手中にしていました。南宮山に陣取る西軍の吉川広家は、徳川との密約により参戦しませんでした。松尾山に陣取っていた小早川秀秋が東軍に寝返って、西軍の大谷吉継に攻めかかったことで、東軍勝利が確定的になりました。

 松尾山の前に陣取っていた西軍の脇坂安治・朽木元綱・小川祐忠・赤座直保の4大名も、事前に内応の約束をしており、小早川勢とともに大谷勢に攻めかかりました。

 このように、徳川家康は、戦う前に外交戦略によって勝つ算段を整えてから、戦いに向かいました。「まず勝ちてしかる後に戦いを求める」戦略を成功させたと言えます。

窪田真之(くぼた・まさゆき)
楽天証券経済研究所チーフ・ストラテジスト
慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネジャー歴25年。公的年金・投資信託・ニューヨーク上場ファンドなど、2000億円超の日本株運用を担当。2014年より現職。楽天証券「トウシル」で月間200万PVを超える人気の投資コラムを連載。「トウシル」のYouTubeで月間20万PVを超える自身出演の動画を配信中。内閣府「女性が輝く先進企業」表彰の係る選考委員・企業会計基準委員会「ディスクロージャー専門委員会」委員・日本証券アナリスト協会「企業会計研究会」委員などを歴任。『2000億円超を運用した伝説のファンドマネジャーの株トレ 世界一楽しい「一問一答」株の教科書』(ダイヤモンド社)『2000億円超を運用した伝説のファンドマネジャーが明かす「超」成長株の見つけ方』(幻冬舎)など著書多数。