株価チャートには、投資家たちの「買い」と「売り」の勢いが表れます。2000億円超を運用した元ファンドマネジャーで、楽天証券の窪田真之さんは、その動きをどう読み取っているのでしょうか。『株トレ――世界一楽しい「一問一答」株の教科書』の著者でもある窪田さんが、実戦で磨いたチャート術を「孫子の兵法」になぞらえて解説します。

Photo: Adobe Stock
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チャートのワザを学んで、トレーディングに勝つ

 新連載「孫子の兵法に学ぶ株式投資術」第3回をお届けします。この連載では、毎回チャートクイズを1つ出します。それを解くのに役立つのが、「孫子の兵法」の知恵です。戦争と株式投資、まったく異なるように見えて、実は共通の要素がたくさんあります。そこをしっかり学べばチャートの読みがさらに上達します。私の連載を通じて、実戦に生きるチャート術をしっかり学んでください。

チャートのクイズに挑戦!

 以下、A社とB社の株価日足チャート(18営業日の推移)をご覧ください。A社・B社ともに100株保有しているとして、今、どうすべきでしょう?

 それぞれ「買い増し」・「売り」・「様子見」のどれかを選んでください。

出所:筆者作成出所:筆者作成

孫子の視点でチャートを眺める

 株価チャートは買い手と売り手が戦う場と思ってください。あなたは、一軍を率いて山の上にいて、中立の立場で戦況を見つめています。勝ちそうだと思う方に加勢してください。

 そこで参考にしていただきたいのが、以下の教えです。

出所:「孫子の兵法」虚実編より作成出所:「孫子の兵法」虚実編より作成

「こちらからは相手の陣がまえが良く見えるが、相手からはこちらの陣が見えないならば、自軍を集中させ、分散した敵を個別に撃破できる」

「良く戦う者は、敵に操られることなく敵を操る」

 A社とB社の日足をよく見てください。売り手と買い手、相手がよく見えているのはどちらでしょう。相手がよく見えていれば、よく戦うことができます。相手の動きをよく計算して有利に戦っているのは、どちらでしょう。加勢するならば、そちらに付いた方が良いと思います。

クイズのヒント

 A社B社とも、18営業日の値動きを見るとどちらも行ったり来たり、ボックス圏で推移しています。ただし、日足をよく見ると、そこに重要な情報が隠れています。

 これを売り手と買い手の戦いとして見てください。どちらが相手の動きをよく見ながら「後の先(ごのせん)」を取っているか考えてください。

 武術において「後の先を取る」ことは大切です。実力がきっこうしている両者が、互いに守りを固めて動こうとしないと、戦いは膠着します。でも、いずれどちらかが動く時が来ます。動かないことには、いつまでも勝負がつかないからです。

 そこで重要なのは、「後の先を取る」ことです。先に攻めようとする方に一瞬の隙(すき)ができます。その隙を逃さずに仕留めるのが「後の先を取る」技です。

クイズの正解は…

 A社は「売り」です。小口投資家がばらばらと買ってきているのを見ながら、大口投資家がドカンとまとめて売っていると思われます。

 A社チャートで、後の先を取っているのは売り手です。売り手は、大量の売り玉を持っているのを秘匿して、買い手にちょこちょこと買わせて上値に呼び込んでおいてまとめて売っています。でも、深追いをせず売りの手を引っ込め、また小口投資家に買わせます。株価が上がると、まとめて売ります。そんなことを、もう3回も繰り返しています。

 こうなると、売ろうとしている大口投資家のたくらみは、チャートに露見してしまいます。そろそろ買い手は買うのを諦めて撤退するところです。ここで売り手が売ったら、株価はボックスを下抜けて、一気に下がる可能性があります。

 B社は、完全にその逆です。大口投資家が買おうとしている銘柄を、小口投資家がちょこちょこと売っているように思われます。売り手が消えて、株価が上放れるタイミングが近づいていると思われます。

大口投資家の動向をチャートから読み取る

 私は2000億円を動かすファンドマネジャーでした。小型株を売り買いする時、まとめて発注すると自分の注文で価格を大きく動かしてしまうので、そうならないように、ほんの少しずつ同じ銘柄を何日も売り続ける、または買い続けるのが普通でした。

 なるべく自分の動きを悟られないように動くのですが、何日もやっていると、それがチャートに表れてしまいます。A社は、高値圏で小型株を大口投資家が少しずつ売っている時に表れそうなチャートです。B社は、安値圏で小型株を大口投資家が少しずつ買っている時に表れそうなチャートです。

 豊臣秀吉と柴田勝家が争った賤ヶ岳の戦い。織田信長亡き後の主導権をめぐる「天下分け目の戦い」でした。当初、両者とも地形を生かした堅固な砦を縦横に築いたため、どちらからも手を出せない膠着状況となりました。先に動くと不利なので、どちらからも仕掛けられなくなりました。

 そこで秀吉は、美濃で挙兵した織田信孝を攻めるために主力の一部を割いて美濃へ向かいました。わざと隙を見せた形です。そこで勝家方の猛将、佐久間盛政が突出して秀吉方の砦を攻め落としました。そこを待っていたかのように、秀吉が驚異的な速さで引き返してきて、盛政の部隊を急襲して大勝し、戦いの趨勢を決定づけました。後の先を取って勝利を決定的にしたと言えます(戦いの経緯に諸説あり)。

窪田真之(くぼた・まさゆき)
楽天証券経済研究所チーフ・ストラテジスト
慶應義塾大学経済学部卒業。日本株ファンドマネジャー歴25年。公的年金・投資信託・ニューヨーク上場ファンドなど、2000億円超の日本株運用を担当。2014年より現職。楽天証券「トウシル」で月間200万PVを超える人気の投資コラムを連載。「トウシル」のYouTubeで月間20万PVを超える自身出演の動画を配信中。内閣府「女性が輝く先進企業」表彰の係る選考委員・企業会計基準委員会「ディスクロージャー専門委員会」委員・日本証券アナリスト協会「企業会計研究会」委員などを歴任。『2000億円超を運用した伝説のファンドマネジャーの株トレ 世界一楽しい「一問一答」株の教科書』(ダイヤモンド社)『2000億円超を運用した伝説のファンドマネジャーが明かす「超」成長株の見つけ方』(幻冬舎)など著書多数。