EVやロボティクスといった先端技術で、世界市場へのプレゼンスを日に日に高める中国。「世界の工場」から「ハイテク技術大国」へと変貌を遂げた背景には、一体何があったのか。フィナンシャル・タイムズの記者パトリック・マギーは、中国が技術大国へと急速にのしあがった最大の要因は、国家の政策ではなく、「アメリカのある1つの民間企業による徹底した指導と投資の賜物である」という衝撃的な事実を告発している。マギーの新刊『アップル自壊』をもとに解説する。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

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戦後の「マーシャル・プラン」すら霞む
アップルから中国への巨額投資

 現在、EVやドローン、ロボティクスといった最先端テクノロジー分野において、中国企業は圧倒的な勢いで世界を席巻しつつあります。しかし、これほど短期間で中国が世界屈指の「技術大国」へと急速に登りつめたのは、いつから、そしてなぜなのでしょうか。

 その答えを紐解く鍵こそが、テクノロジー大手、アップルの存在です。新刊『アップル自壊』の著者パトリック・マギーは、中国の技術的飛躍の陰には、アップルによる手厚い技術指導があったと指摘します。

アップルは、あるベテラン社員いわく「賢い人の中でも一番賢い」有能な人材を中国に送り込むことができ、そのようなことはどの政府計画でも不可能だった。しかもアップルのエンジニアは1日18時間は働くという企業文化だった。
さらに、政府計画では製品を製造する労働力を訓練するまでで、実際にその製品を購入することはできない。だがアップルにはそれが可能で、実際にそうした。
経済学の言い回しを使えば、アップルは市場全体を創出していた。つまり、労働者の訓練と製造機械という形でインプットを供給し、そのアウトプットを購入するということだ。
アップルとの契約を勝ち取ったサプライヤーは、膨大な受注を与えられ、誰も経験したことのないペースで生産拡大する術を教わる。
――『アップル自壊』より

 アップルは、単に安価な労働力目当てで中国に工場を建てたのではありませんでした。特に有能なエリートエンジニアを現地に滞在させて技術指導を行い、さらに数億ドル規模の最先端工作機械を自ら買い集めて中国の工場へ持ち込み、世界最高精度の量産ラインを構築してみせたのです。

 本書によると、2015年時点でアップルが中国へ投じた推計投資額は、なんと「550億ドル(約8.2兆円)」に達します。これはたった1年間の額です。

 この数字の異様さは、第二次世界大戦後にアメリカが欧州16カ国の復興支援のために4年間かけて投入した「マーシャル・プラン」の133億ドル(2016年時点の換算で1310億ドル)と比較しても際立っています。

 技術大国として急速にのしあがろうとしていた中国にとって、実は、アップルこそが「最大の支援企業」だったのです。