1200年続く京都の伝統工芸・西陣織の織物(テキスタイル)が、ディオールやシャネル、エルメス、カルティエなど、世界の一流ブランドの店舗で、その内装に使われているのをご存じだろうか。衰退する西陣織マーケットに危機感を抱き、いち早く海外マーケットの開拓に成功した先駆者。それが西陣織の老舗「細尾」12代目経営者の細尾真孝氏だ。その海外マーケット開拓の経緯は、ハーバードのケーススタディーとしても取り上げられるなど、いま世界から注目を集めている元ミュージシャンという異色の経営者。そんな細尾氏の初の著書『日本の美意識で世界初に挑む』がダイヤモンド社から発売された。閉塞する今の時代に、経営者やビジネスパーソンは何を拠り所にして、どう行動すればいいのか? 同書の中にはこれからの時代を切り拓くヒントが散りばめられている。同書発刊を記念してそのエッセンスをお届けする本連載。好評のバックナンバーはこちらからどうぞ。

iPhoneも「わび・さび」も、逆転の発想から生まれたPhoto: Adobe Stock

「逆転の発想」の実践者だったスティーブ・ジョブズ

 現在、世界で時価総額一位の企業となっているのが、アメリカのアップルです。そのアップルのCEOとしてかつて次々と革新的な製品を生み出したかのスティーブ・ジョブズも、「逆転の発想」の実践者でした。

 iPhoneやiPadなど、ジョブズが生み出した革新は数多くあります。

 その中に、現代のパソコンでは常識となっているGUI(Graphical User Interface)というものがあります。これは要するに、コンピュータを、マウスを使って画面上のポインタで動かせるようにしたことです。

 何をそんな当たり前のことを、と思うかもしれません。しかし実は一九七〇年代まで、文字でコマンドを入力して操作するコンピュータしか、世の中には存在しなかったのです。

 GUIの技術を密かに研究していたのは、ゼロックスのパロアルト研究所でした。その研究所を訪問した際にジョブズは、その技術が持つ可能性に気づきました。

「画面で視覚的に操作できるコンピュータ」の可能性を見てとったのです。アップルが八三年に発売したコンピュータ「Lisa」は、GUIを備え、マウスで動く史上初のコンピュータでした。

 視覚的に操作できるコンピュータがそれまでまったくなかったために、その革新がもたらしたコントラストは計り知れないもので、センセーションを巻き起こしました。

 それから四〇年近くが経ち、ほぼすべてのパソコンがGUIで操作するものになっているのは、皆さんがご存じのとおりです。

「今までの常識になかったもの」が、四〇年の時を経て、誰も疑うことのないメインストリームとなっているのです。