「何度説明しても、相手が動いてくれない」「正しいことを伝えているはずなのに、なかなか話が進まない」。そんな悩みを抱えている人も多いのではないだろうか。しかし、同じように説明していても、相手を納得させるだけで終わる人と、周囲を巻き込んで行動を引き出せる人がいる。では、その違いはどこにあるのだろう。『世界の役員が教えてくれたこと――「仕事に追われる人生」で終わらない生き方』が、その答えを教えてくれる。(構成/ダイヤモンド社・石井一穂)
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「正しい説明」をしても、人は動かない
会議で、時間をかけて準備した資料を説明する。
数字は正確。論理にも矛盾はない。想定される質問への回答も用意している。
ところが、説明が終わっても、なぜか話が進まない。
「なるほど、よくわかりました」
「いったん持ち帰って検討しましょう」
そんな言葉で会議が終わり、結局、何も決まらない。
こうした経験をしたことはないだろうか。
多くの人は、相手を動かすためには、正しい情報をわかりやすく伝えることが大切だと考えている。
もちろん、それは間違いではない。
しかし、正しく伝えることと、人を行動へと導くことは別の話である。
「何を伝えるか」よりも「何を変えるか」
では、人を動かせる人は、何を考えて発言しているのだろうか。
そのヒントになるのが、『世界の役員が教えてくれたこと』で紹介されている、次のエピソードだ。
それは、ある外資系企業で、月次の業績が予算を大きく割り込みそうになったときのこと。担当部長は、未達の要因を端から端まで精査し、数字の誤差を徹底的に排除することに心血を注いだ。
客観的な事実を正しく把握しようとするその姿勢は、ビジネスパーソンとしての誠実さであり、必要なものだ。
一方で、担当役員の頭の中にあったのは、まったく別の問いだった。
「未達という事実をどう提示すれば、組織は最善の動きをするだろうか」
未達は動かせない事実だが、数日後には次期の大型案件が成約しそうだという情報もある。
もし社員たちに、ただ未達の事実だけを淡々と突きつけたとしたらどうなるか。
現場は瞬時に「守り」に入り、リスク回避の空気が広がるかもしれない。営業のアクセルは緩み、重要な採用判断は先送りされ、パートナーとの攻めの交渉も慎重に傾いてしまわないとも限らない。
そこで役員は、次のように伝えたという。
役員が選んだのは、シンプルな手法でした。事実を伝えると同時に、次のアクションをセットで提示する。ただそれだけです。
「現状は計画比で10%未達だが、これをリカバーするために、次期の大型案件の早期成約に最善を尽くす」
もし「10%未達です」とだけ報告すれば、会議の時間は過去の失敗の原因分析という内向きの議論に費やされたはずです。
現状と次の一手をセットで伝えることで、組織の視線は自然に未来へと向けられました。
――『世界の役員が教えてくれたこと「仕事に追われる人生」で終わらない生き方』より
未達という事実は変わらない。
しかし、次に何をするかをセットで伝えることで、社員たちの意識を「過去の失敗」から「これからの行動」へと向けたのである。
ここに、本当に仕事ができる人の特徴がある。
彼らは、発言する前に「この言葉によって、相手の行動はどう変わるのか」を考えているのだ。
大切なのは、正しい情報を伝えることだけではない。
「その発言は、何を変えるのか」
口を開く前にそう自問する習慣が、役員には自然と身についている。
発言の先にある波及効果まで視野に収めてから、初めて言葉を選ぶ。
その一手間が、場の流れを変え、人を行動へと導く言葉選びにつながるのである。








