「いざとなればアメリカが助けてくれる」。そんな日本の常識が、いま揺らいでいる。アメリカが中国との現実的な協調を模索する一方、日本は対中関係を悪化させ、対米依存から抜け出せずにいる。しかし、もはやアメリカは、何かあれば飛んできてくれる「頼りになる兄貴」ではないという。日本はこれから、どのような外交を目指すべきなのか。国際政治学者で、『アメリカの中学生が学んでいる 14歳からのアメリカ史』に推薦コメントを寄せた三牧聖子氏に聞いた(取材・構成/石井広行)。

「頼りになる兄貴」はもういない…アメリカに依存し続ける日本が直視すべき外交の現実Photo: Adobe Stock

対中外交に滲む「危険な幻想」

――前回お話しいただいたような、アメリカが世界からだんだん手を引こうとしている状況に対応して、今後日本は、アメリカとどのような姿勢、どのような距離感で向き合っていくべきだとお考えでしょうか。

三牧聖子(以下、三牧):今、日本は外交的に中国と対立していて、9月には米中首脳会談の前に日米首脳会談を潜り込ませて米中の離間を図るようなことをしていました。しかし、こうした姿勢をとっていては、日本は生き残れないと思います。

 米中の力は今や各分野で拮抗しています。たとえばAIについても、先端分野ではまだアメリカが先を行っているものの、中国からもDeepSeek(ディープシーク)のようなAI企業が新たな動きを見せている。

 そして、AIに関連してもう一つ挙げるとすればデータセンターです。今回のアメリカ中間選挙ではデータセンターが、ものすごい量の水や電気を消費し、環境に負荷をかけるのに雇用は生まないことから、誰がその負担を負うべきかが争点の一つになっています。データセンターを新たに建てること自体が容易ではない状況です。

 一方、中国は権威主義の国なので政府主導でデータセンターの整備を進めやすい。しかも太陽光発電などの電力対策に関しては、アメリカより遥かに進んでいます。そうなると長期的なAI覇権競争の帰趨もわからないわけです。

 そうした中、アメリカは中国と、限定的な競争をしつつも現実的に折り合う道を進もうとしています。それなのに日本が、アメリカは常に自分たちの味方だから、中国と対立しても別に構わないと考えるのは、極めて危険な幻想と言えます。全部が全部頭を下げるべきとは思いませんが、より国力のある隣国との、現実的な折り合いを探っていかなければいけない段階に来ているのではないでしょうか。

 トランプ大統領は台湾有事について話を振られても、一切乗ってきません。もし台湾有事が起きた場合、中国から台湾を守るのかと何度も聞かれていますが、私は習近平氏との関係が非常に良く、そんなことは起きないから、仮定の質問には応じられない、としか答えません。

 これは別にトランプ大統領だけがそうなのではなくて、アメリカの世論がすでにそうなっているのです。日本にとって唯一の同盟国であるアメリカとの関係は依然として大事ですが、もはや、何かあったら飛んで来てくれる国ではない。となると、隣国との関係は自分たちで管理して、対立が決定的になったり、軍事的な衝突が起こったりしないよう、より関与していかなければいけないのです。

 むしろ、対中関係が悪化していることで、日本がアメリカに何も言えなくなっていることの方が由々しき問題です。吹っ掛けられた関税を下げてもらうために、出資・融資・融資保証を含め、最大5500億ドル(約85兆円)規模の対米投資を約束させられても、何も言えない。

 そもそもアメリカという国の変化が見えていないのでは、と考えざるをえません。

アメリカを「相対化」するべき

三牧:中国だけでなくロシアとの関係も同じ構図です。北海道新聞の記者の拘束をはじめ、ロシアが日本に政治的圧力をかけてきている状況ですが、トランプ大統領はプーチン大統領に対しても宥和的です。そうした日本を取り巻く極めて厳しい国際環境があるにもかかわらず、相変わらず対米一辺倒に依存してしまっている。

 長期的なトレンドに照らすと、むしろ日本は、アメリカという国を絶対視するのではなくむしろ相対化して、他のいろいろな国と、外交を多元的に行っていかなければいけない段階に来ているのだと考えています。

 そこで一つの参考になるのはカナダのカーニー首相のスタンスです。先日、アメリカから50パーセントの関税を吹っ掛けられたカナダは、アメリカとの関係も保ちつつ、ある種の見切りをつけて中国との関係改善にも乗り出しました。また対EU関係においても、貿易や安全保障など幅広い分野で協力を深め、アメリカへの依存を減らそうとしています。

 カナダに限らず今はどの国も、アメリカが世界秩序に対する責任を放棄しつつある状況に必死に対応しようとしています。そうした中にあって、日本の動きは正直鈍いと言わざるを得ません。アメリカ社会のダイナミズムや変化を的確に捉えることが今まさに求められています。

超大国なき世界では「対話」が鍵を握る

――今後の日本の外交姿勢は、具体的にはどうあるべきだとお考えですか。

三牧:要は対話が必要なのだと思います。米中関係だって、さまざまな猜疑心や信頼できない部分があるからこそ、対話をしている状況です。日本も、いま日中関係が悪いからこそ、最低限の対話が求められるのですが、それすらできていないという状況です。

 このまま、安保3文書(日本の防衛政策の指針となる「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」)改定に突き進み、防衛費を増額していくと、中国は間違いなく、日本の新型軍国主義はすでに具体的な形をとっていると批判するでしょう。防衛力を強化するというのであれば、なおさらそれがおかしなコンテクストで理解されないよう、中国や国際社会との対話の枠組みを構築していく必要があります。

 先述した通り、アメリカも、もはや絶対的な超大国と言える状況ではありません。だとしたら日本は、何かあったらアメリカが出てきてくれるという発想をまず問い直さなければなりません。

 トランプ大統領は、これまでアメリカは80年間同盟国のお世話をしてきたんだから、関税率を引き上げ、80兆円規模の対米投資をしてもらうのも当然である、という、収奪的なスタンスを見せています。歴史的に見てもアメリカという国は、一方では国連を作ったり、世界の警察官として振る舞ったりといった、同盟国を守る「頼りになる兄貴分」としての姿勢を見せる一方で、非常に収奪的な側面をあわせ持っています。

 ですから、アメリカが戻ってきてくれることに期待するというよりは、何かあったら飛んできてくれる、頼りになる兄貴分はもういないんだ、という、良い意味での諦観を前提に、外交を再構築していくタイミングなのだと思います。新しいアメリカとどのように関係を作り、これまでアメリカに頼ってきた部分を、どのように他の国との関係によって作り替えていくかを考えることが大事になってきます。その過程で、新たな日本の課題も見えてくるのではないでしょうか。