iPhone人気が爆発していた2010年代初頭の中国でアップルが特に恐れたのは、裏社会と結びついた「組織的転売屋」だった。ルイ・ヴィトンのバッグに100元札の札束をパンパンに詰め込み、数千人の出稼ぎ労働者を雇ってアップルストアを包囲した彼らは、いかにして市場を支配したのか。新刊『アップル自壊』より、その凄まじい実態を明かす。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

background of money. currency of PBOC or people's bank of china. One hundred CNY Chinese yuan bill. 100 rmb or renminbi, depicts Beijing economy system, public banking policy and interest ...Photo: Adobe Stock

整然と積み上げられた札束

 2010年末、中国におけるiPhone4やiPadの爆発的ヒットにより、直営店(アップルストア)の前には連日異様な行列ができました。

 しかし、そこに並んでいたのは純粋なファンだけではありません。ルイ・ヴィトンのバッグに札束を詰め込んだギャング風の男たちが、出稼ぎ労働者の大群を仕切っていたのです。

 中国で「黄牛(ホアンニウ)」と呼ばれるこれらの組織的転売屋は、店舗が少なすぎる市場の隙をつき、独自の闇流通ルートを構築していきました。

ジョン・フォードは、話している相手が犯罪組織の連中だと確信まではできなかったが、たぶんそうだろうとは感じていた。
派手な宝飾品を身につけ、やけにふんぞり返った態度の彼らは、アップルストアの店先に並ぶ数千人の人を仕切っていた。金のネックレスをしていて、何人かの持っているルイ・ヴィトンのバッグには、その傷一つない折り返しの縁までいっぱいに100元札が詰め込まれていた。
(中略)
中国語ではこのようなギャングもどきのことを、俗に「黄牛(ホアンニウ)」と言う。市場の非効率性につけ込んで金儲けをする組織的な転売屋のことだ。
――『アップル自壊』より

 中国直営店の責任者であったジョン・フォードは、転売屋を排除するために購入制限を1人2台に絞るなど様々な手策を講じました。

 ある時、特別に1人の転売屋に2000台を販売して懐柔を試みましたが、翌日にはさらに大量のiPhoneを要求される始末でした。

黄牛たちの反応にフォードは唖然とした。ある黄牛には、「俺の金がスッカラカンになるなんて絶対ありえねえ」と言われた。フォードが信じないでいると、その転売屋にちょっと表に連れ出され、数ブロック行ったところで角を曲がり、用心棒たちの脇を抜けた。
部屋に入ると、そこは広さ180m2ほど、家具も何もなく、置いてあるのはただ一つ。人民元だ。整然と積み上げられた札束は、出稼ぎ労働者に渡してiPhoneを数万台買わせるために準備されていた。
(中略)
例の黄牛はフォードに、「お前は売りつづけるんだ。世間のやつらがもう欲しがらなくなるまで俺はここで買いつづけるからな」と言った。そして自分の商売のしかたを少しだけ説明してきた。一般人を数百人雇って1人ずつ何台もiPhoneを買わせ、世界一象徴的なその製品を手下が何千台も集め、それを別の都市へ運んで独占的に販売する。
金儲けのチャンスはいくらでもある。アメリカには人口が200万人を超える都市は4つしかなかったが、中国には少なくとも40はあった。
――『アップル自壊』より

 さらに転売屋たちの不法行為は買い占めだけでは終わりませんでした。彼らは海外から安く仕入れたiPhoneのメインチップを意図的に焼き切って破壊し、新品との不正交換を求める「保証詐欺」を組織的に開始します。

 この詐欺の不当な要求が拒否されたことが、後の国営テレビ(CCTV)による大規模なアップルバッシングへと発展していくことになります(第3回参照)。

工場で黄牛たちは、iPhoneのメインチップを「焼き切る」方法を見つけた。携帯電話を意図的に破壊して、本来の販売対象国が分からないようにするのだ。
その上で、金をつかませた中国人出稼ぎ労働者をアップルストアに並ばせ、新品のiPhoneが動かないと苦情を言わせる。
(中略)
腹を立てた彼らは、傲慢な欧米企業が中国人の客を不当に扱っていて、壊れた携帯電話を交換せずに修理で済ませていると文句を言いはじめ、その不満の声がさまざまな政治的チャネルを伝わっていき、最終的に共産党の代弁機関である中国中央電視台(CCTV)に届いた。

 潤沢な資金、人海戦術、そして巧みな不正工作を駆使してアップルを翻弄した彼らの存在は、単なる流通の混乱にとどまらず、後の政治的危機へと繋がっていきました。